堂ヶ崎研真の女集め(書き出し祭り没プロット)
――実に退屈な大会だな。どこでもいつでも似たような大会ばかりが開催される。
企画を立てたヤツは考えが足りないとしか思えないし、参加している連中もそうだ。
下らない。実に下らない。
最初こそ斬新だと言われながらも矢継ぎ早に開催され、斬新さというメッキが剝がれれば、ありがちな惰性に成り下がる。
それにただ出るだけの愚鈍な参加者たちに何一つ美点を感じない。自分では何一つ生み出さない愚図どもが。
男の感想は、何度参加しても同じだった。
何度繰り返しても同心円のような内容、それでもその大会にすがり付く亡者のような参加者たち。
うんざりしながら、それでも、堂ヶ崎は手を挙げた。
「四億ドル」
中華民国ちゅうごくのとある町で三ヵ月に一度開催される、合法な品と違法な品が入り乱れるオークション。もちろん違法な品がひとつでも混じれば違法。
絢爛にライトアップされた会場が、商品たちの暗黒めいた出自を覆い隠し、影を濃くするような会場の中。
盗品や偽造品、有るはずのない国宝。
様々な曰く付きの商品が並ぶ中、それと分かりながら作り笑いで繰り広げられる競売で、堂ヶ崎は平然とケタをふたつ上げた。さっさと終わらせたい、その一念からだったが、周囲はどよめいた。
さして注目されていなかった箸休めのような品への破格の投資に、誰しもがその意味を推察しようとするが、それは徒労。
この品の価値は、この場では男一人しか理解していない。
「それでは、そちらの……お客様に……落札、です」
「堂ヶ崎」
「は?」
「俺の名前は“お客様”じゃない。堂ヶ崎。堂ヶ崎どうがさき研真けんまだ」
誰もが裏を疑うような破格。堂ヶ崎が落札したのは、一本の刀。
かつての幕末、維新派と政府派の戦いの折、新鮮組隊員のひとりが用いてゲベール銃の使い手たちを一〇人と少々を斬殺し、妖刀と化したとされる群咲。
虎徹や菊一文字よりも刀剣としての評価は高いが、持ち主が沖田総司でも近藤勇でもないことが災いし、美術品としても歴史的には大きなエピソードもない。
なにせ、ただ新鮮組の隊士というだけなら長い活動期間の中で中途脱退した者を含めて数百人居るわけで、その中で無名の隊員の持っていた刀、というだけで数百万ドル、下手をすれば数十万ドル、という事前予想をされていた刀だった。