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いや、それで良いんだけど(方程式の温度を猫に計らせてはいけない)

 真冬自身も気付かなかったが、その顔は真助に見られるのを避けていたリンゴ顔。その目からは涙が伝っていたが、真助は言葉を変えることはしなかった。

 「……ボンベをふたつを使って七二時間、ギリギリ助かるかもしれない……そう、“ふたり”でなら頑張れるな」

 真助の目は、真冬の腹部へ向けられていた。意味を察したとき、真冬は紡ぐ言葉を持たなかった。

 「俺じゃない。生き残るべきは俺じゃないんだ。俺がこの空気を使うってことは、お前とお腹の子のふたりを殺すってことだ。だがお前が空気を使えばそれはお腹の子を助ける、ってことだ。分かるな?」

 「分かりたくないよ! やだよ! もっと絶対にあるよ! ふたりで……じゃなくって、皆で助かる方法が絶対あるよ! 探そうよ!」

 「探したんだよ! お前が意識を失っている間、できることは全部やった! だが無かったんだっ! 頼むから……分かってくれ……」

 それまで毅然と話していた真助が初めて感情を表に出して膝を折ったが、それに対して、真冬の心は冷静さを取り戻していた。

 愛し合うふたりの心は天秤のような性質を持っていた。どちらかがパニックに陥ればそれを助けようとする性質。これまでは真助が平静を装っていたことで泣くことができていたが、真助が崩れたことで急速に自我を取り戻していくのを感じた。

 「残されたあたしとこの子はどうなるのよ? 死んだあなたの隣で飲まず食わずで三日間、流産するわよ!」

 「頼むよ! それしか無いんだ! 頼むから俺に死なせてくれ!」

 「三六時間ずつ、空気を使いましょうよ、その間に救助がくるかもしれないでしょ?」

 「お前も計算しただろ? 確実に間に合わない! それは三人とも確実に死ぬんだよ! 俺はそんな三六時間だけは受け取れない!」

 「じゃあ、真助が七二時間全部使ってよ!」

 「さっきも云っただろッ! お前とお腹の子を殺してまで生きたくはない! お前は母親だ、生きる義務が有る!」

 「あなたも父親だから生きる義務があるの! それに何、あなたは私やこの子を殺すのがイヤなくせに、あたしとこの子にはあなたを殺させるの?」

 「だっ、もう、じゃあ、どうすれば良いんだよ!」

 「脱出の方法を試しましょうよ!」

 「あるのかっ!?」

 「ないけど!」

 「それって両方死ぬだけだろ! だったらお腹の子が助かる方を試してくれって!」

 「あなたの死の責任をこの子に押し付けないでってば! そこまで死にたいなら、あたしが起きる前に死んでてくれたら良かったでしょ!」

 「お前が脱出の方法知ってたら死に損だろうが!? だから目を覚ますまで待ってたんだろうが!」

 「あのねぇ! 死ぬなら死ぬであたしに悟らせずに死ぬくらいの配慮は見せてよ! そのショックとあなたの死体を見てひとりで七二時間過ごしたら、それこそ流産して死ぬってば!」

 「だぁあああもおおおおお! 良いからタッカー貸してくれよ! それで見えないところで死ぬから!」

 「じゃあ、私が息が苦しくなったら、どうなるのよ!」

 「その前に救助が来ることになってるだろうが!」

 「あのー……すいません」

 『うるせぇ! 取り込み中!』

 二人が怒鳴り散らした先には、ドリルを持った救助隊員たち。

 「……あれ?」

 「口論しすぎて、空気がなくなってるのに気づかなかった……?」

 「……」

 「……」


 みんな生き残ったものの、結婚は取りやめになったとさ。性格の不一致は大事。


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