一〇一号室の話 (罪肉罰食 シリアルキラーコーンシリアル)
〔一月三日〕
おはようございます。私は田口紗理奈……幽霊です。
裏野ハイツ一〇一号室に住んでます……眠いです、おやすみなさい。
〔一月一〇日〕
おはようございます。私の……あ、名乗りましたよね。
すいません、私、幽霊になる前から面倒くさがりで、それで騙されたりすることが多くて……眠いです、おやすみなさい。
〔一月二二日〕
他の幽霊さんとはちょっと違うらしくて、死んでも眠いんですよねー……。
生きている間はそれでお兄ちゃんに怒られたりしてて、もう死んでから三〇年くらい経つんですけどね……。
まだ寝ちゃダメですか? そうですねー……私が死んだ恨みもお兄ちゃんと酒井さんが晴らしてくれましたし……成仏しても良いんですけど……。
……すぴー……。
〔二月五日〕
まだ眠いですぅ……私は幽霊って云っても……お兄ちゃんと一緒の部屋で寝起きできれば良いんですよー……。
お兄ちゃんがお嫁さんを貰うまでは、居ても良いかなー……って……すぴー……。
〔三月一五日〕
あー、よく寝ました。おメメぱっちりです!
えっと、なんのお話でしたっけ? 人間を怨んでいないか? 怨んでないですよー……。
私が自殺したとか思ってお兄ちゃん辛そうだったけど、最近は楽しそうだし……。
え? 借金苦で自殺? してませんよ? ただおカネがなくてガス止められちゃって、しょうがないからバーベキュー用の練炭で料理してたんです。
でも、料理の途中で眠くなって、起きたらお兄ちゃんが泣いてて……あのときは、悪いと思ったな……死んじゃったのはあんまり気にしてないですしー。
……なんかいっぱい喋ったら眠くなっちゃいまし……た……おやすみなさい……。
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おはようございます、え? まだ二〇秒くらいしか寝てないんですか?
生きてるときは毎日一〇時間くらいの睡眠でよかったんですけどねー。
死んでからは脳がないからか、眠りが全然一定じゃなくてー、すみませーん。
肉体がないから食べなくていいし、働かなくてもいいし、たまーに直人くんとか鉄平くんが遊びに来てくれるから退屈しませんし……。
……あ、ここの管理人さんの裏野さんのお孫さんと、一〇三の男の子の幽霊なんですけどね。
……ああ、眠い。
〔五月八日〕
ふああー、よく寝た。
で、えっと、え? 成仏しろってことじゃないんですか?
悟り?……えっと、私がですか? 憎悪や欲望を捨て去った仏?
……死んじゃってるから、仏さまかもしれませんけど、って、え? そういう意味じゃないんですか?
パワーがある? 世界を作りかえられる力? へー……そうなんですかー?
強制的に解脱させる? ってえーっと……? つまり、今生きている人を皆殺して、理想の世界にできるんですかー、なるほどー……。
あ、じゃあ、お兄ちゃんの肩凝りとか水虫とかを治したりできます?
……あ、それはできないんですかー……じゃあ、良いですー使いませんからー……すいません、眠くなったので……。
〔六月二三日〕
「あー! サリナ姉ちゃん起きてるー!」
ある日、一〇一号室の中に、一〇三号室に住む子供の桜井直人がやってきた。享年八歳という年齢相応に似つかわしい元気な少年だ。
直人は田口紗理奈に飛びついて小さい頭を差し出す。紗理奈も撫でやすい位置にやってきた坊主頭を優しく撫でてやる。
「……あれ? 直人くん……ここに誰か居なかった?」
「? 居ないよ? だって田口のおじさんはお仕事だし、それに女の子たちも成仏しちゃったよ?」
「……ハヤマ?」
「姉ちゃん、いつから寝てたの? 昨日、酒井さんが殺したレンゾクサツジンキだよ。もしかしたら幽霊になって出現するかもしれないからって、酒井さんが云ってたよ」
「……他の人、居なかった? 神様みたいな人」
チンプンカンプンといった様子の直人をよそに、また紗理奈を睡魔が襲う。まあどうだっていいか、とあくびをひとつ。
「なんかねー……世界には罪人がたくさん居るから、私が次の世界を作れって云ってたんだけど……まー……いっかー……」
眠りにつく紗理奈と、それに付き合って目を閉じる直人。
今日も、審判の日は訪れなかった。
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