87話 陰と紅葉朔夜
屋久島、森の中の龍脈の支流が流れ込む洞窟。
陰はその中で歩みを止めた。
何故ならそこには刀を携えた女性が待ち構えていたからだ。
「夕月陰、貴女が相手ですか。」
「その様です、ヘラ。」
その名に朔夜は顔をしかめる。
「私は紅葉朔夜です、神ではありません。」
「そんな事は興味ありません、貴女が敵、それだけです。」
陰は刀を抜いて斬りかかる。
その刀の名は十束剣、日本に伝わる神殺しの刀であり、妖魔人の命を絶つ数少ない武器であった。
「その剣は危険ですね、私もいきましょうか。」
朔夜も刀を抜いて応戦する。
小賢しい作戦や攻撃を使わない正面からのぶつかり合い、それはそう称する事が相応しい戦いだった。
そして戦いが進む中、変化が起こった。
「くっ。」
自らに振り下ろされた朔夜の刀を陰は十束剣を持たない左手で受け、その刀で朔夜の体を切り飛ばした。
その結果朔夜は倒れ起き上がれなくなり陰の勝利が決まったが、彼女の左腕は根元から切り落とされていた。
「紅葉朔夜、貴女の負けです。」
襲い来る筈の激痛を微塵も顔に出さず淡々と告げる陰に朔夜は疑問を掛ける。
「腕を犠牲にしなくても貴女は勝てたでしょうに、何故そんな事を?」
「私の体など大した物ではありませんから、それに兄様なら修復も可能です。」
「何故?」
様々な意味の籠った問いに陰は語り出す。
「まず、私は生きてはいません、意思も記憶もありますが実質は死霊術によって動く死体です。
昔私は生まれそして私の家の家族と共に殺されました。
そこを助けてくれたのが兄様です、家族の中で唯一成仏せずに彷徨っていた私の魂を見つけ、その骸を死霊術によって再生し生かしてもらったのです。
一応生命活動はしていますし、死ぬ事もあります、ですが痛みを感じる事は殆ど無く、感情においても殆どの事において起伏が少ない。
それはさておき再生の過程で私はガシャドクロの力を宿しました、兄様が皆に言わないのは恐怖を避ける為でしょう、問題ないと私は思いますが。
結局はそんな所です、今も大した痛みはありませんし、血を意識的に止める事など造作もありません。
私は失礼します、新たに築かれた国では私たちの手伝いをして頂けるとありがたいです。」
そう言った後、陰は一礼をして立ち去った。




