84話 小夜子と松霧鶴斗
兵庫淡路島、海辺の洞窟
「居ますね、松霧鶴斗さん、隠れても無駄ですよ。」
その言葉を聞いて岩陰から現れた鶴斗が何か言おうとするが小夜子はそれを遮る
「言葉にする必要はありませんよ、思い浮かべるだけで十分ですから。
私が誰かですね、わたしは望月小夜子、貴方が最も苦手な相手でしょう。」
傲慢とすらとれるその物言いに鶴斗は三叉の槍を構えて突き出す。
それは小夜子の首を間違いなく跳ね飛ばす・・・はずだった。
攻撃をひらりと躱した小夜子は不敵に笑う。
「攻撃を開始してから私を貫くまで一秒足らず、普通なら当たっていたでしょう、ですが攻撃を放つ事を貴方は五秒前から考えていた、貴方は攻撃をよく狙って放つのでしょう?
私は最も相性が悪い相手、あの方はそれがよく解って居らっしゃいます。」
鶴斗は水を弾丸のようにして大量に飛ばすがそれも意味をなさない。
「不意打ちですか?無駄ですよ。」
躱したところに近づいて三叉の槍で突いた鶴斗だったがそれも刀で軽く防がれる。
相変わらず何か言おうとする鶴斗の言葉を遮り、小夜子は話し出す
「戦闘能力が高すぎると?
確かにわたしは実戦経験がありませんからね、ですが記憶なら持って居ます。
不思議ですか?簡単な事ですよ、わたしはサトリ、記憶なら見せて頂きました、夕月様に。
あの方の戦闘経験を全てね、勿論身体能力の限界もありますが、思考が読めればそれは意味を生さない。」
言葉の終わりと共に小夜子は斬りかかり、相手の防御していない部分を的確に攻撃していく。
「長い間話しましたね、貴方に疑問を口に出してもらえば少なくて済んだのでしょうか。
でも、ハッキング終了です。
貴方の思考に傷を刻み続ける恐怖『トラウマ』は何でしょうか?」
じっと大きく見開かれた妖しく輝く人の物でない妖魔の瞳で見られた鶴斗は意識を失い崩れ落ちる。
その様子を静かに見つめていた小夜子は吐き捨てる。
「最大の恐怖は周りから認められない事ですか、ばかばかしい、その程度、大した事では無いでしょうに。
本当に怖いのは他人の自分への考え、建前とは違う本音が全て解ってしまう事かもしれません。」
最後は自分自身に言い聞かせるようにそう呟いた小夜子はその場を後にした。




