110話 農部
「主様、休憩した方が良いと思うのです。」
「そうね日も暮れるし終わりにしましょうか、皆にそう言って来て頂戴。」
「はいなのです。」
鈴音がとてとてと駆けていくと宇迦之御魂は用意してあったおにぎりを持ってくる。
「皆に帰る様に言ってきたのです。」
鈴音が帰って来ると宇迦之御魂は縁側に座って膝の上に鈴音を座らせる。
「主様、最近はお米の育ちが良いですね。」
「そうね、軽罪の罰の長期間の労働で人手も増えました、それに刑が終わったら農業に就く人も増えています、これを考えた陽さんは凄いですね。」
「皆は主様だから一生懸命に働いていると思うのです、主様も凄いのです。」
「そう・・・なのかしら?それなら嬉しいな。」
おにぎりをほおばっている鈴音の頭を宇迦之御魂はゆっくり撫でる。
「鈴音、何か欲しい物はある?」
「主様と一緒に居れたら鈴音はそれでいいのです。」
「・・・・・・・・・ありがとう。これからもよろしくね。」
「・・・・・・はいなのです。」
鈴音はおにぎりを食べ終わり、次第にウトウトとし始める。
「寝ちゃったか。」
宇迦之御魂は鈴音を布団に寝かせ、再び縁側に座って月を見上げる。
「あら、来たのですか。」
宇迦之御魂が境内に目を向けると一匹の狼が獣とは思えないほど優雅に佇んで居た。
「夕月陽ですね、その体に精神を一時的に宿して、皆を見に来たのですか?」
狼は頷き宇迦之御魂の横に寝そべる。
それを撫でようとして宇迦之御魂は手を止める。
「すいません、いつも狐たちにしている癖で。」
狼は首を振ると宇迦之御魂に擦り寄る。
「ふふっ、そう言えば獣に意識を乗せるとそっちに意識が近づきましたね。」
そう言って宇迦之御魂は狼の背中を撫でる。
狼は暫く目を瞑っていたが、すくっと立ち上がるとひらりと縁側から飛び降りる。
「もう行かれるのですか?」
そう宇迦之御魂が問うと狼は頷き、走り出す。
「他の方々の所に行くのですね、それでは次は人の姿でお会いしましょうね。」
宇迦之御魂は盃で御神酒を一口飲むと残った御神酒に望月を映し出す。
「伊邪那美おばあ様と酒を呑む約束をしたのでしょう?
今度は御一緒させてくださいね。」
ふと盃から御神酒が無くなっている事に気付いた宇迦之御魂は微笑んで再び月を見上げた。




