108話 代償
既に溶けてしまった海の岸辺で観測をしていた史が口を開く。
「メタトロンの死亡を確認した、これで戦いは終わったね。」
そう言った瞬間史は眉を顰める。
「・・・おかしい。」
「御神楽、どうした。」
「いやね、局長、陽の反応も消えた。」
「死んだか?」
「そうかも・・・いや違うね、メタトロンが死んだ時はちゃんと死亡反応が出た、でも今回は出てないっていうか反応自体が消えてるね。」
「つまりは何だ?」
「存在が抹消されたとは考えにくいけど、少なくともあそこには居ない。」
「兄様が消えた?」
陰は首を傾げる。
「何か知っているの?」
「はい、兄様が行ったのは危険な術式です、力を吸い取られる螢様やエレボスもですが、兄様も肉体は人間の部分があります、そこへの負担が多いため暫くは休養が必要だろうとは言っていましたから。」
「御神楽、居場所は解るか?」
「局長ちょっと待って、今解析中だからさ・・・・・・中々見つからないね、既に北半球は探知済みなんだけどね。」
「それは良いとしてこれからどうするのですか?」
宇迦之御魂の言葉に大和は冷笑する。
「当然この国を立て直す、陽が居ようが居まいが関係ない、陽から基本的な法案を受け取っている、他にもいくつか陽の部屋にあると言っていたからそれも用いて実力主義の基盤を築く。」
「そうですか、解りました。」
「他の者も異存は無いな。」
その問いに小夜子言った言葉は皆の気持ちを代弁していた。
「私はあの方を信頼しています、あの方が築こうとして居た世界ならそう簡単に間違う事は無いと思います。」
「そうだね、今までに戻るより良い事に変わりはないよね。」
その後ずっと探知を続けていた史がようやく口を開いた。
「やっと見つけた、そりゃあ見つからない訳だよ。」
「兄様は何処にいるのですか?」
「あそこだよ。」
そう言って史は空を指さす。
「死んだとでも言いたいのですか。」
「いやいやだからあれだって。」
史の指さす先には黄色く光る丸い星。
「・・・まさか月。」
「正解。」
「なんであんな所に。」
「アリスさん、それは恐らく回復の為でしょう、月は夜の象徴の様な物、あそこなら夜に対して人間が持つ恐れや恐怖が最も集積しているのでしょう、かなり時間が掛かると思いますが必ず帰ってきますよ。」
「月・・・か帰って来たらそこの様子を聞いてみようかな。」
「史さん、そこで私を見るのはやめてもらえますか?私はガイア、大地です、空の上の事なんて知りませんよ、それは彼女に聞いて下さい。」
「それじゃあ太古の地質とか・・・・・・。」
「諦める気はなさそうですね。」
鈴音はじっと地平線の向こうに顔を出した満月を見ている。
「鈴音、どうしたの?」
「主様、向こうから見えてるのかなって思って。」
「きっと見えてるよ。」
「なら十五夜にお供え物するのです!」
「鈴音・・・それ何かが違う。」
「きっと帰って来るよね。」
「アリスさん、私達はただ待つだけです、あの方が帰って来る時を、その時あの方に顔向けできないような国には決してできません。」
「そうだね、小夜子ちゃん。」
「はい、この胸の痛みは体中にある傷とは関係ありません。」
「一緒に作ろう、新しい世界を。」
まだ少し続きます。




