89話 酒呑童子と菊粂月杯
北海道大雪湖沿岸、かつてアリスが居たその場所に酒呑童子は到着した。
「雪か、酒を呑むには良い景色だが、お前が居ちゃあ酒も不味くなる。」
その視線の先には刀を帯びた男が一人杯を傾けていた。
「酒呑童子、久しいな。」
「昔俺の屋敷を吹き飛ばして以来か?茨木童子よぉ!」
「古い名だ、今は違う。」
酒呑童子は手を握りしめる。
「俺はお前のその澄ました態度が気に食わねぇ、叩き潰す!」
酒吞童子は素早く間合いを詰め、殴り掛かるが簡単に止められる。
「くそがぁ!」
魔力を宿した相手の魔力バランスを崩壊させる一撃も刀であしらわれ手の甲を薄く切られる。
「丈夫さは健在の様だな、この刀でその程度か。」
「化け物が、俺もちょいと本気出すか。」
酒呑童子は懐から酒瓶を取り出すとその中身を一気飲みする。
「俺は酒呑童子、酒は俺の強化薬よ。だが、ちょっと強いな、流石は陽に貰ったものだけはある。ネクタルだったか?神の酒はつえぇなあ。」
あまりの強さに一瞬よろめいた酒呑童子は今まで以上に早い速度で攻撃を仕掛ける。
「おらよっ。」
「脳筋馬鹿がっ!」
「そんなこと言って押されてるじゃねぇか。」
酒呑童子は相手の頭を掴み、全体重を乗せて地面に叩き付けた。
「終わったか?」
「まだだ、負けはしない。」
「あっそう。」
再び頭を掴んで何度も叩き付けるとやがて動かなくなる。
「これで最後だ!」
全魔力を注ぎ込んだ一撃はその破壊力と共に茨木童子の体の中の魔力を暴走させて体に仕込んでいた自爆の術式をも破壊した。
「お前はつえぇ、それは認める、だがな、これはお前が殺した俺の同族達の分だ、俺自身の落とし前はまた後で付けさせてもらう、頸を洗って待ってるんだな。」
二本目の酒瓶を空にした酒呑童子は帰還の為、その場を立ち去った。
茨木童子がその場から去った後、地面に飛び散った血は新たに降り注ぐ季節外れの雪によって隠され、消えていった。




