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秘密

 



 「………えっ?」



 少女が目前に迫る危機に気付いたのか、立ち止まるがもう遅い。


 ホブゴブリンの振るった棍棒が少女の肉体を捉えた。


 グシャッ!!


 骨が砕け、肉が潰される。


 少女の身体がボールのように地面を撥ねて転がり、そして動かなくなった。



 「ギヒッ」



 少女を害する事が出来たことに喜びを感じているのか、ホブゴブリンがいやらしく笑うのがやけに耳についた。



 「………ッ!!」



 思わず飛びかかりそうになったが理性を総動員して何とか押し止めた。


 今はそんなことよりもやるべき事がある。


 私は黒霞が立ちこめる中、急いで少女に駆け寄ると安否を確めた。



 「……ッ! 酷い…」



 棍棒を胸に受けたらしい。


 胸部が大きく陥没してしまっている。


 どう見ても致命傷だ。


 人よりも強靭な力を持つ魔物の攻撃をまともに受けてしまったのだ、こうなるのは当然だった。




 くそっ、何やってるんだ私は!!


 ホブゴブリンへの怒りと自分自身への遣る瀬無さにギリッ、と唇を噛み締める。


 彼女が一般人かもしれない、と予想してた。


 それなのに彼女をパニクらせる状況を作ってしまい、結果この様だ。


 対応さえ間違えなければ助けられた筈なのに……。


 押し寄せる後悔に飲み込まれそうになる。



 「………コホッ」



 少女が咳き込み、口から血を吐いた。


 ……ッ!!


 まだ生きてたのか!!


 口元に耳を寄せるとヒューヒューとか細いが確かに息をしていた。


 それを確認した私は急いで回復薬(ポーション)を取り出すと少女の口に流し込んだ。



 「……ゲホゲホッ」



 しかし内蔵がやられて飲み込めないようですぐに吐き出してしまった。



 「くそっ、ここじゃ治療は無理か」



 この状態だと一刻も早く治癒魔法職(ヒーラー)の治療を受けさせなければ命は無いだろう。


 即死が免れただけで少女の命は風前の灯火だった。




 すぐに少女を連れて地上に戻るべく、広間を抜けて転送陣へと向かおうとする………が、その時『闇夜の帳(ナイト・カーテン)』を維持していた魔力が切れた。


 広間を覆っていた黒霞が見る見るうちに晴れていき、私たちの姿が曝け出された。



 「チッ、こんな時に……」



 私は思わず悪態をついた。


 正直、もう魔力の残りが心もとない。


 四層の探索時に消費した魔力が回復しきってない内からボスに挑む羽目になるのは完全に想定外だった。


 ……もう一度『闇夜の帳(ナイト・カーテン)』を使えば逃げれるだろうか?


 いや、一度曝してしまった手だ。


 もう通用しないだろうし、こっちには満足に動けない少女をがいる。


 視覚が奪われてもこちらの位置がばれてるのなら『闇夜の帳(ナイト・カーテン)』を使う意味が無い。




 ……なら闘うか?


 しかし、攻撃力に欠ける私が普通に戦って突破しようとすればだいぶ時間を食ってしまう。




 ………このまま普通に闘えば、ね(・・・・・・)


 


 「………………ッ、やるしかない、か」



 人には見せられない、私だけの裏技……それならば一気に片をつけることが出来る。



 周りに人の目は無い。


 大丈夫だ、覚悟を決めろ、ヘルミナ。




 「グルオオオオオオオオオオオッ!!!」



 ホブゴブリンが咆哮を上げ、こちらに一歩踏み出した。


 迷ってる暇は、無い。



 「こっちはお前とやり合ってる時間は無いんだ。 ………だから、一気に決めさせてもらう」



 私は覚悟を決め、口元に手首をもってくると歯を立てて噛み切った。


 そして血が滴る傷口に口付け、ジュルルルと血を啜る。



 「……ッ!!」



 その瞬間、ドクン、と心臓が高鳴った。


 そして身体が火がついたように熱くなる。


 私の身体の奥に眠っていたモノが寝覚め、身体を瞬く間に侵食していく。




 ホブゴブリンも目の前で起きている異常に気が付いたようだが、もう遅い。


 ホブゴブリンがじっと動かない私に向かって一気に駆け寄ると棍棒を振るった。


 先程少女に振るわれたものとは違う、全力の一撃。


 だが……



 「ギギッ!?」



 目の前の光景にホブゴブリンの顔が驚愕に歪んだ。


 そこにあったのは棍棒で潰された私の姿……ではなく、それを私が平然と素手で受け止めている姿だったのだから。



 「何を驚いている」



 私が手を払う、それだけで棍棒が勢いよく弾かれる。


 私は体勢の崩れたホブゴブリンの懐に飛び込むと隙だらけなその腹に拳を叩き込んだ。



 「ギヒィッ!?」



 私の一撃は胴にめり込むだけに留まらず、ホブゴブリンの身体を吹っ飛ばした。


 ホブゴブリンは壁に激突し、痛みにのた打ち回る。


 這い蹲りながらもこちらを睨みつけ、そしてその顔が恐怖に染まった。


 奴は見てしまったのだろう……私の眼が血のように紅く染まり、爛々と輝いているのを。


 浅く息を吐くその口の端から人には無い筈の長い牙が伸びているのを。



 「半魔を言う存在を知ってるか? 穢れた魔の血を引いて生まれた混血種のことをいうらしい」



 私が腕を掲げると手首の傷口から血が噴出す……が、血は落ちる事無く宙に漂っている。


 血を噴出した傷口はすぐに出血が治まると傷口の肉が盛り上がり、あっという間に傷口が消えた。



 「私の母も魔物に襲われた不幸な犠牲者の一人だった。 母を襲った魔物はそれはそれは恐ろしい魔物だったと聞く」



 私が手を振るうと宙に浮かんだ血が蠢き、数多の刃を形作る。



 「その魔物は標的を縛る紅い紅蓮色の魔眼と人には無い鋭い牙、そして血を自在に操る力を持っていたという。 さて、その魔物がなんだったか分かるか?」



 ホブゴブリンが再び私に襲いかかろうと駆け出し、途中で動きを止めた。


 まるで金縛りにでもあったかのように。



 「正解は吸血鬼(ヴァンパイア)。 危険度Sランクの災厄級魔物の力、存分に味わえ」



 私が腕を振り下ろすと大量の刃がホブゴブリンに降り注ぎ、ホブゴブリンは断末魔を上げる間も無く全身を切り刻まれ命を散らした。




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