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ヘルミナさん、風になる

 


 【迷宮探索2日目】



 ………むぅ、なんか寝心地が悪い。



 寝心地の悪さを感じて目覚めると何故か見慣れた宿屋の天井では無く岩肌が見えた。


 のそりと起き上がると身体中の筋肉が凝り固まっているのかして体がだるい。


 きっとベッドが硬かったせいだ。


 ………あれ、でも宿屋のベッドってこんなにも硬かったっけ?



 おかしいなーと思い周囲をキョロキョロと見渡してようやく現状を思い出した。



 「あー、そうだった。 今、迷宮探索中なんだった……」



 昨日、三層目への階段近くの開けた場所で魔物避けの聖水を撒いてそのまま寝ちゃったんだっけ。


 んー、と伸びをしながら大きな欠伸を一つ洩らす。


 朝はまったりとしたい派の私だが迷宮内でそんなことは出来ないので仕方なく朝食の支度を始めた。


 荷物の中から保存食……人の食い物とは思えないほど硬い黒パンに干し肉、それと水を出す事ができる魔石を取り出す。


 持って来た器に魔石から生み出した水を注ぎ、その中に黒パンと干し肉を浸してやれば準備終了。


 地上だったら周囲から燃やす物を集めて調理できるがそんなものが無い現状ではこんな食事で我慢しなければならない。


 あまり味とかそういうのは考えないようにして、無心になってふやけて柔らかくなった部分から齧っていく。



 ………なんか鼠にでもなった気分だね、カジカジ。



 食の文化を発展させた人達って偉大だったんだなぁ、と思いながら朝食を終えると荷物を手早く片付け、探索の準備に取り掛かった。


 まずは怪我防止の為にストレッチをして身体をほぐす。


 それが終わると身だしなみを整え、取り外していた装備を取り付けていく。


 そして最後に装備や武器、道具に問題がないか確認を済ませると私は三層に向かって出発した。


 それでは本日の探索スタートだ。





 三層内の構造は二層と同じ迷路状の構造をしていたのだが、二層よりも道に分岐が多く複雑になっていた。


 マッピングをしっかりしてないとすぐに迷ってしまいそう。


 かといってマッピングにばかりかまけていると魔物と遭遇した時に対処が遅れてしまうので注意が必要だ。


 特に私みたいにソロで探索してるなら尚更だろう。


 なので現状で出来る簡単な対処として分岐路に出たときはひたすら直進、前に道が無い場合は右に曲がるようにした。


 これなら簡単だし戻るときにも間違えようがないから大丈夫だろう………たぶん。


 もし迷ったら迷った時にどうするか考えればいいや。


 それよりも気を付けるべきは魔物である。


 さっきから魔物をちらほら見かけてるんだが、群れて行動してる奴が多い。


 パーティーで探索してるのなら問題ないんだろうが、ソロで探索している身としてはあまり相手をしたくないんだよね。


 魔物からの採取は収入源なので収入を増やす機会という意味では大歓迎なんだけど、一度に多数の敵と殺りあうのはこちらの消耗も激しくなっちゃうし、怪我などしようものなら薬代で赤字になってしまう。


 冒険者の中にはそれで破産する者もいるというから笑えない。


 流石にこんな浅層で破産するほどの怪我をすることは無いだろうけど。


 唯でさえ安価な物しかない採取できない浅層の探索なのに、下手な事をして収入を減らすような真似は避けたい。


 だから浅層であろうと油断せずにいかないと……。




 ………ポタ……ポタ……



 それにしてもさっきから上から落ちてくる雫が鬱陶しいな。


 別に水気があるような場所じゃないのに……。



 ……ベチャッ!!



 わわっ、頭に落ちてきたっ!?


 あーもー何なんだよ!!


 ジャストミートしてちょっとイラッ☆ときちゃいましたよ。


 眼力を籠めて頭上をヤンキーのように睨み付ける………って、あれ?


 なんか天井の暗がりに光が見えたような……?


 よ~く目を凝らしてみるとその暗がりがごそごそと動いているようにも見える。



 たらり、と一筋の汗が頬を流れ落ちるのが分かった。



 私は何も見てない……見てないぞぉ……。



 私は視線を下に向けゆっくりと忍び足でその場から立ち去る……。


 いや、立ち去ろうとした。



 ………ヒュウゥゥゥン……ペチョッ……



 「ふひゃあっ!?」



 ちょっ、うなじは反則ぅ………はっ!?



 思わず声を上げてしまった瞬間、頭上からチリチリと視線を痛い程感じた。


 チラリと上を見てみればこちらを見下ろす無数の赤い眼の輝きと眼が合った。


 ………に、にこぉ。



 「ギイィィィィィィィィィィィッ!!」



 その瞬間、私は風になった。


 必死になって走る、走る、走る。


 しかし追いかけてくる羽音が全然離れない。

 

 前方で通路が左右に分かれているのが見えた。


 迷わず右に曲がるとそのまま走り続ける。


 カクカクとした曲がり道を突っ切っていると段々羽音が小さくなってきたのが分かった。


 後ちょっとで引き離せるかと思った矢先、この逃走劇は終わりを迎えることになった。


 通路に先が行き止まりだった………っておいぃぃぃぃぃっ!!


 私が背後を振り向くと通路の先に見えた蠢く黒い影がどんどん大きくなっていく。



 「あぁぁぁんもおぉぉぉ、神様恨んでやるぅぅぅぅ!!」



 私は迫り来る脅威を前に半泣きになって叫んだ。



 

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