タイラス地下迷宮
私が滞在している街、タイラスシティには迷宮が存在している。
街の端っこに迷宮の入り口があり、それを囲むように石壁と監視塔が建てられ、さらにその周りに冒険者のための宿泊施設や商店などが立ち並んでいる。
上から見下ろすと街の造りは迷宮→防壁→商店・宿泊施設→防壁→他の商店→………といった層状になっているので樹の年輪のように見えることだろう。
迷宮を塞ぐための施設が最初に作られ、そこから迷宮に潜る冒険者のための施設が徐々に建てられていったことで拡大して出来たのがこの街だといわれている。
このように出来た街は迷宮ありきの街ということから『迷宮都市』と呼ばれている。
この日、私はこの街にある迷宮、タイラス地下迷宮に訪れていた。
勿論、目的は迷宮探索だ。
周りには私の他にも迷宮探索が目的の冒険者が沢山いて入り口のゲートの前で入場待ちの列が出来ていた。
私もその列に並んでいるのだが、なんか非常に居心地が悪い。
理由は分かってる。
周りに眼をやると武器の手入れをしてる者、どう探索するか話し合っている者、パーティー待ちしてる者等々、色々と眼に入るが彼らには皆共通点がある。
皆、パーティーを組んでいてソロ冒険者が全然いないのだ。
まあ、考えれば当然のことではある。
危険な迷宮に潜る上で仲間はいるに越したことはないし、一人で持てる荷物に限りがある以上、人数が多いほど収穫が多くなるのだから。
中には荷物運び専門の運び屋を雇ってるパーティーも見受けられる。
………私?
勿論一人ですが何か?
……………ケッ、どいつもこいつも仲良しごっこしやがってコンチクショウ。
そんなことを考えてる内に私の番が来た。
身分確認を行うゲートの管理人のおっさんに私は黙ってギルドカードを差し出した。
こうした確認を行うのはギルドが迷宮に探索に潜る冒険者や未帰還者の状況を把握するためらしい。
「ほう、Fランク冒険者か。 後、仲間の者もカードを出しなさい」
「いや、あの………私、一人なんですが……」
「えっ、あ……そうか」
頼むからそんな眼で見ないで欲しい。
涙が出ちゃう。
「ソロだと危険だろうから無茶するんじゃないぞ」
おっさんはそう言って私にカードを返した。
おっさん、ありがとう。
同情でも嬉しいよ。
ゲートを潜ると広間に出た。
そこには大きな穴があり、中から地下へと続く階段が伸びている。
ここを下れば迷宮に入る事ができる。
あ、ちょっと緊張してきた。
なんか不備が無いか入る前に確認しておこう。
私は背負っていた荷袋の中身を確めた。
食料は1日2食で1週間分用意している。
水は水を生み出す事ができる魔石を用意した。
各種ポーション薬も一通り揃えた。
その他諸々の生活用品もオーケー。
次は装備品の確認をしよう。
今着ているのは普通よりも丈夫に織られた布で作られた黒色の胴衣に、袴が紫色の巫女服みたいな服。
我が生まれ故郷では皆和服のような服を着ており村の中は江戸時代の日本みたいな所だった。
この服は修行時代に爺さんから貰った服で、妖術師の正装だそうだ。
腕には杖の代わりとなる数珠が巻きつけられている
服の上からは急所を守れるように皮の胸鎧を装備して靴は勿論草履。
腰につけた革ベルトには戦闘時に使う各種道具を入れたポーチを取り付けている。
うむ、問題無さそうだ。
それじゃ覚悟を決めて迷宮探索に乗り出すとしよう。
迷宮の中は洞窟の中みたいでに通路の壁はむき出しの岩肌になっていた。
岩肌には光苔がついていて薄暗くはあるが視界に困るという事は無さそうだ。
一層目は直線の大きな通路があり、そこから沢山の通路が派生するような構造をしていた。
事前の調べによると一層目には魔物がおらず、このような通路だけのフロアのようだ。
沢山通路があるがどれもハズレという事は無く、どの通路でも通路の先に二層目へと続く階段があるようで、まるで入ってくる冒険者を分散させるためだけにあるようなフロアらしい。
私と同じタイミングで入ってきた冒険者達も徐々に姿を消していき気が付けば私一人だけが通路に残されていた。
私も適当に分岐した通路を選んで進んでいくと奥の階段へと辿り着いた。
ここからが迷宮の本番だ。
この奥は魔物犇く異界、命を失ってしまうかもしれない危険地帯。
心してかかろう。
私は気を引き締めると階段を下った。