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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に

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八十七話

 バチバチと、辺りに電気を放ち敵を威嚇する、子ライオンの見た目をしたレイラの契約精霊――上級精霊・サンダーチルオン。

 同じく上級精霊、突風をまき散らしながら悠然とたたずむ巨鳥、孔雀の見た目をしたグレンの契約精霊ブラストピーヘン。

 そして、強固な守りたる殻をもった、水を纏いし貝。

 エリスの契約精霊、中級精霊・ウォーターシェル。


 中級精霊一体、上級精霊ニ体。

 最強ともいえる布陣が、そこにはあった。

 当然だ。

 三人はこの国、アルマンド王国に七つしかない公爵家の人間。

 それも、エリスを除くグレンとレイラは、それぞれマーソン家とマレット家の次期当主。

 この国を支えていく血筋。

 故に――彼らは強い。


「グレン君!」

「わかっています。【ブラストハッチ】!」


 レイラの声よりも先に、グレンは自身の契約精霊に命じていた。

 【風の上級精霊魔法 ブラストハッチ】。

 主から命を受けたその瞬間、孔雀の見た目をした上級精霊・ブラストピーヘンはその美しい羽をばさりと広げ、そしてそれを元に戻す要領で膨大な風を起こす。

 風は、真っ直ぐに敵である黒い精霊にぶつかり、その瞬間その場で風は黒い精霊を取り押さえるかのように渦巻く。

 苦しみながらその場で拘束を断ち切ろうと暴れるが、意味をなさない。

 どうやら、先ほどフェイが放った魔法とは違い吸収されていないようだ。

 と、その瞬間をレイラは逃さない。


「【サンダーストーム】!」


 まるで嵐の時天から降り注ぐ雷のように。

 サンダーチルオンは纏っていた電気をさらに増幅させ、そして解き放つ。

 不規則な軌跡を残しながら、しかし猛烈な音を立て、雷撃はそのすべてが黒い精霊に当たろうとする。

 そしてその瞬間、グレンは拘束を解く。

 グレンとレイラの精霊魔法が相殺しあわないように、だ。

 パーンと、猛烈な音がフェイたちの鼓膜を揺らす。


 当たった。


 今のを受けてまともでいられるわけがない。

 上級精霊の攻撃だ。

 それを耐えられる精霊がいるとしたなら、最上級精霊か、かの伝説の帝級精霊以外にありえない。

 普通ならば、今ので勝利を確信して気を緩ませるだろう。

 が、レイラたちは警戒したまま、バチバチとその場で放電されて姿を確認することのできない黒い精霊のいる場所を睨む。

 と、そこから魔力が膨れ上がるのを感じ、フェイは身構えた。


 ヒュバッ――っと、風を切る音ともに、先ほどまでの攻撃よりも遙かに太い黒いなにかが飛び出す。

 その標的は、レイラだった。


「シェル!!」


 と、それまで黙していたエリスが自身の精霊を愛称で呼んだ。

 それで、彼女の精霊ウォーターシェルは主の言わんとしていることを理解した。

 すぐさま、貝の見た目をした水の精霊はレイラと黒い精霊の間に割ってはいる。

 と、その場で回転を始め、纏っていた水を展開する。


 水音を立てながら、水の壁と黒い精霊の攻撃はぶつかりあう。

 しばしの拮抗の後、両者は消滅した。


 レイラはエリスに感謝の意を込めた視線を送りながら、焦燥を露わにしつつ黒い精霊に視線を向ける。


「上級精霊魔法を受けて、無傷……?」


 所々に普通とは違うことはあれど、中級精霊に見えるのにも関わらず上級精霊魔法を受けて無傷。

 これは異常なことだ。


「あの精霊に関しては後でじっくり考察しましょう。それよりも、今は町の被害を減らすことを優先しないといけない」


 グレンがレイラにそう声をかける。

 それを受けて、わかっていますと、一言短く返した。


「どうやら、あの精霊は普通の中級精霊とは違うみたいです。おそらくもう一度上級精霊魔法を放っても無意味でしょう。ここは術師の方をやりましょう。このまま放っておいたら、あの人も危ない」


 魔力が強引に吸い取られているのを見て、フェイはそう提案する。

 おそらく、あの黒い精霊は暴走、あるいはそれに近しい状態なのだろう。

 術師の意など介すことなく、命も危ぶまれるレベルまで魔力を搾り取っている。

 どんな精霊であれ、契約をしている以上契約者から魔力が提供されなくなれば力をふるえなくなる。

 であれば、このまま術師の魔力がつきるのを待てばいい。

 が、それでは遅い。町の被害もさることながら、術師である男性の命も危ういのだ。


(といっても、どうやれば……)


 手っ取り早いのが、術師を殺すことだ。

 フェイは、この方法がいの一番に思い浮かんだ。

 とはいえ、そうしてしまっては情報が聞き出せない。

 何より、この黒い精霊に関して一番興味を抱いているのはレイラでも、グレンでも、エリスでもない。

 他でもないフェイだ。

 だからこそ、フェイにとって殺すという選択肢は最悪だ。

 どうしたものかと、思案する。

 その間も、黒い精霊はその力をふるう。

 男性を気絶させても、あの精霊はそれでも尚魔力を搾り取るだろう。

 ならば、一時的に男性との契約を断った上で、気絶させるしかないだろう。


「会長たちは、精霊の相手をしていただけませんんか?」

「! フェイ君はどうするのですか?」

「男性の処置は僕がやります。僕なら、殺さずに対処できます」


 フェイの言葉に、レイラたちは思わず押し黙る。

 正直なところ、レイラたちには男性を殺す以外に選択肢はなかった。

 それを、他でもないフェイが自分ならばできると、そう言ったのだ。


「…………。わかりました。私たちで注意を引きつけます」

「助かります」


 感謝の言葉を述べながら、フェイは魔力を放出する。

 この場にいる誰よりも澄んだ高純度の魔力。

 黒い精霊は、その魔力に反応してフェイを見る。

 この場にいる誰よりも、フェイが一番危険だと、そう認識したのだろう。

 が、フェイに手を出させないのがレイラたちの任。

 であればこそ、注意を自分たちに向ける必要がある。

 風で動きを封じ、雷撃を放つ。

 初手と同じ攻撃。

 効かないのはわかっている。

 しかし、倒す必要はない。ただ注意を引きつけられればいいのだ。

 と、その間にフェイは男性に接近する。


「――ッ」


 【エンチャントボディ】で強化した身体能力を活かして接近していたフェイに、黒い精霊が攻撃を放った。

 レイラたちが仕損じた訳ではない。

 ただ攻撃方向を変えたのだ。

 全方向に小さい球を放つ。


「【ウォータードーム】!」


 エリスの契約精霊が、フェイの頭上に移動し、噴水のように水を放出し、ドーム状にフェイを覆う。

 そして、すべての攻撃を防いだ。

 ちらりと、フェイはエリスを見る。

 ほっと、安堵した表情を彼女は浮かべていた。

 目を細めてそれを一瞥して、フェイは再び走り出す。

 そして、射程内にはいったところでーー魔力を練る。


「【エレメンタルコントロール】!」


 高純度の魔力をぶつけ、契約者と精霊の魔力の流れを一時的に断つ、系統外魔法。

 思惑通り、魔力がぶつかったとたんに黒い精霊の動きが鈍る。

 そしてその一瞬を見計らって、フェイは男性の腹部めがけて、魔法を放つ。


「【ロックボール】!」


 ふらふらの男性を気絶させるには、それだけで十分だった。

 崩れるようにその場に倒れた男性を見届けてから、フェイは黒い精霊に目を向ける。

 そして、目を見開く。


 動きを止めた中級精霊もどきの体から、黒い靄のようなものがあふれ出る。

 そしてそれは、一つの固まりとなり空高くとんでいった。

 その場に残ったのは、気絶した男性と、男性の体内へと戻りいく、普通の中級精霊だけだった。

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