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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に
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七十九話

「――――ということで、今後この村一帯は私が統治することになりました」


 キャルビスト村の村長の家。

 その応接室――といっても、決して豪奢ではないが――で、フェイはこの村の村長、フォルズと対面していた。

 軽くあいさつを済ませて、助けてもらったことに対する礼を述べてから、フェイは本題に入った。

 自分が、ボネット家に変わりこの村と、その一帯を統治することになった旨。

 それを、この村の代表である村長に伝えたのだ。


「承知いたしました。今後は、フェイ=ディルク様に従いましょう」


 茶色の狼耳が特徴的なフォルズが、フェイの言葉に頷く。

 顎辺りから伸びている髭を触りながら、フォルズはその赤い瞳でフェイを射抜く。


 彼は、新たな領主を見定めていた。

 見定めるといっても、決して上からの意ではない。

 ボネット家と比べて、自分たちに対してどのような扱いをしてくるのか。

 願わくば、税が軽くなることを祈るばかりだ。


「取りあえず、村の経営に関わる資料を全て出してください」

「分かりました……」


 敬語を使い、低頭で接してくるフェイに些か驚きを抱く。

 驚くといえば、フェイの歳にも驚いた。

 例え貴族の息子であっても、十三歳が領地を持ち、法を敷くなどそうあり得るものではない。


 相手が子供ならば――――


 甘い考えが、フォルズの脳裏に宿る。

 だが、直ぐにその考えを捨てる。

 たとえ子供であろうとも、領地を任せられるのには何か理由があるはずだ。

 油断するわけにはいかない。


 長年この村の村長を務めてきたフォルズの責はただ一つ。

 この村に生きる村民を人類に殺させないことだ。

 それは、前任の村長から任されたものでもある。

 つまりは、自分が何か失敗をすれば、その時は村民の命を危険にさらしてしまうことになる。

 慎重に慎重を重ねる。


 鋭い視線で、フォルズはフェイを見つめる。

 そして、フェイもまたフォルズの視線に気付いていた。無論、その視線の意味にも。


(予想以上に警戒されているなぁ。ボネット家はなにをしたのやら……)


 大体予想はつく。

 では、自分はどうするか。

 どういう風にこの村を統治したいか。

 自分の命令一つで、この村に住む者の命は容易く奪うことが出来るだろう。

 だが、フェイはそのことに優越感は抱かない。

 むしろその逆。恐怖と焦燥がフェイを支配する。

 だがともかく、目の前の男――フォルズには弱みを見せてはいけないような気がした。


「そう言えば、例の盗賊の件ですが……」


 唐突に、フォルズが口を開いた。


「あぁ、そう言えば。彼らはどうしていますか?」


 自分が気を失ってから盗賊の動向は耳にしていなかったなと、フェイは思い出して聞く。


「あの後尋問いたしましたが、特に何も話しませんでした。埒が明かないので一旦尋問は中止し、今は地下牢に閉じ込めております」

「閉じ込めている? ということは、彼らはまだ生きているんですね?」

「? ええ……」


 訝しりながらフォルズは頷く。


(生きている。つまりは毒で自殺しなかったという事か。なら、ボネット家の差し金ではないか。ボネット家なら絶対に失敗したら死ぬように命じているはずだ。深読みしすぎたか)


 奴らはただの盗賊。

 フェイはそう結論付ける。


「それで……盗賊たちの処遇なのですが……」


 フォルズが重々しく口を開く。

 彼が何を言わんとしているのか、フェイには分かった。


「勿論、こちらを殺そうとしたのです。死刑以外に選択肢はありません」


 盗賊は死刑。

 それは、当然の認識である。

 何かしらの利用価値があるだとか、または情状酌量の余地がある理由があるのならば別だが、命、財産、名誉。それらを踏みにじり、奪う盗賊にそれ以外の刑はあり得ない。


「そのことなのですが、いかんせんこの村にはそういうことを行う場所がございません」

「刑場がない、ということですか?」

「はい。この村のみならず、獣人の住む村の大多数は、そう言う場がないのです……」


 獣人に人類を裁く資格はない。

 刑場がないことは、そういうことだろう。


「でしたら、王都に移送して、そちらで処置をしてもらうしかありませんね」


 フェイの言葉にフォルズは頷く。


「では、王都からの兵が来るのに数日かかると思いますので、その間は盗賊たちの身柄はよろしくお願いします」

「分かりました……」


 フェイは立ちあがる。


 どうせ盗賊は死ぬ定めにある。

 ならば、あの時殺していればこんな手間が増えることもなかったものを……。

 フェイはそんなことを思いながら、応接室を後にした。

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