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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に
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七十三話

「メリア。用意できた?」

「はい! 大丈夫です!」


 小鳥たちが囀る早朝。

 週末の休みに突入したフェイは、早速自身が賜った領地に足を運ぶことにした。

 今住んでいる部屋は今月中には契約を切る予定で、その後は自分の領地にある屋敷に住むことにしている。

 そんなことはメリアも承知のことであり、フェイが領地に向かうタイミングでメリアはボネット家の屋敷に戻ることにした。


「本当に大丈夫? 何なら、この部屋を使っても構わないんだけど」

「いえ。いつまでもフェイ様に甘えるわけにもいかないですし、今回がいい機会なんですよ」


 そう言って、メリアは荷物を玄関まで運んできた。

 彼女がそこまで言うのであれば、フェイとしてもこれ以上引き留めるつもりはない。

 ボネット家も、今は色々と大変な時期なのだし、下手なことをすることはないだろう。


 それにしても……と。


 フェイはここ最近の自分の行動を振り返る。

 平日の五日間は、何日か休んだことがあるとはいえきちんと精霊学校に通っている。

 けれど、その週末二日間の休みは家にいることが減った。

 王城に足を運んだり、貴族の屋敷に招かれたりだ。


 必然的に、自分にとって精霊学校での生活がついでのようになってきた。

 無論、精霊学校で得た友達との関わりが嫌なわけではない。

 だが、そもそも自分が精霊学校に通う意味はあるのかと、不意に思ってしまう。

 元はといえばラナが自分に通うように仕向けたわけだが、学園に通っていても特にこれと言って転機はない。


(いや、転機ではあったか。精霊学校に通い始めてから自分の周りで様々なことが起きているし。ラナさんはこうなることが分かったうえで僕を精霊学校に行かせたのかな)


 このまま精霊学校に通えば通うほど、やたらと面倒なことに絡まれる気がする。

 実のところもう手遅れになっているのだが。


「フェイ様?」

「ん、じゃあ行こうか」


 鍵をかける。

 荷物がまだ残っているので一度は戻ってくるだろうが、それ以降は恐らく使わないだろう。

 短い間だったとはいえ、フェイにとってはこの部屋は結構居心地がよかった。

 そんなことを思いながら空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。






「それじゃあ、気を付けてね」

「はい、フェイ様も」


 フェイは例によって精霊学校に迎えが来ている。

 ボネットの屋敷とフェイが今回賜った領土は少し離れている。

 なので、メリアとフェイは途中で別れた。


 少しの寂しさを覚えながらも、フェイは精霊学校に向かう。


「お待ちしておりました、フェイ様」

「お待たせしました。トレントさん、アンナさん」


 いつものように、二人がフェイを出迎える。

 そして馬車に乗るまでの一連の流れを経て、いつもとは違う行き先に向かう。


「あ、そう言えばトレントさんは場所が分かるんですか?」


 王都に向かうことは何度もあったが、フェイの領土へトレントが足を運ぶのは初めてだ。

 道が分かるのか、そんな懸念があった。


「ええ、大丈夫です。地図で確認しましたし、途中までの道は先日実際に確認いたしましたので」


 そんなフェイの懸念をトレントはすぐさま払拭する。


 仕事が早い。

 彼が自分のそばでその手腕をふるってくれたなら、それほど助かるだろう。

 そんなことを思いながら、フェイは目を瞑った。






「フェ、フェイ様。もうすぐで……す」


 噛まないことに最大限の注意をした結果、語尾を話すのにいったんの間を置いて、アンナが寝ているフェイを起こす。

 車窓から差し込む陽の光にまぶしそうに目を細めながら、フェイはアンナに礼を言い、外を見る。


「森。湖。草原。いいところだ」


 精霊学校に入るまではラナと共に森に暮らしていたフェイにとっては、自然は普通の人以上に心地よいと感じ、安心できるものとなっている。


「あ、見えてきましたねっ!」


 反対の車窓から同じく外を眺めていたアンナが、弾んだ声を上げる。

 アンナの向く方へ視線を移すと、そこにはフェイの領地、キャルビスト地方最大の街、いや村があった。


 今回フェイが得た領地はそれほど大きくはなく、その領内に存在する村は四つ。

 例えばボネット領の割譲後の村や町の数は数十を超えるのだから、その差は歴然である。

 そして、今回ボネット家がフェイに与える領土としてこのキャルビスト地方を選んだ最大の理由は、〝獣人が多く住んでいる〟場所だからだ。


 今までボネット家は国が基準に決めている税金を大幅に超える額を徴収してきた。

 だが、その中でも獣人が多く住むキャルビスト地方の村などには、その額以上の税金を徴収していた。

 当然、村内では満足に食事をとれない領民も多く存在する。

 そのため労働力は低下、最近では徴収額を回収できないことが多く発生している。

 つまるところ、この地方はボネット家からすれば痩せた大地。

 すでに絞り切ってしまったところをフェイに与えたとしても、大して損はないと、そう判断したのだ。

 幸い、国王が条件として出してきたボネット領東部。この条件にも合致した。


(なるほど……)


 キャルビスト村の様子を見たフェイは、すぐさまボネット家の考えを読んだ。

 わざわざこの地方を選んだのだ。何か理由はあるだろう。

 そう決めつけていたフェイの考えは正しかった。


 とにかく詳しい現状を聞かなければ対処のしようがない。

 ひとまず村内に入り、村長の話を聞こう。

 そうフェイが決めた、そのとき――


「ぐぅ……!」


 声にもならない呻き声をフェイはあげる。

 突然馬車が横転し、全身に衝撃がはしったのだ。

 森に隣接する少し高めの道を走っていた馬車はそのまま坂を滑り、草原へと落ちる。


 何が起きたのか。

 事態を把握しきる前に、二度目の振動がフェイたちを襲った。

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