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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に

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七十二話

「闇の帝級精霊の話はやはり無い……か」


 精霊学校の有する図書室に足を運んだフェイは、真っ直ぐ精霊に関する書物が集められているエリアに向かった。

 その中で、帝級精霊に関する題目の書物を片っ端から手に取りパラパラとめくる。

 ただし、炎の帝級精霊、氷の帝級精霊、風の帝級精霊、地の帝級精霊、雷の帝級精霊――所謂五帝獣に関する史実や伝記、そして五英傑にまつわる話は辛うじて形を成して残っている。

 けれど、フェイの目的である肝心の闇の帝級精霊に関する話は全く載っていない。


 そもそも、闇の帝級精霊、加えて光の帝級精霊は一度も人間に姿を見せたことはない。

 火、水、風、土、雷の五属性に帝級精霊が存在するのだから、残りの光、闇の二属性にも当然五帝獣に匹敵する力を持った精霊、俗にいう帝級精霊が存在するだろうという希望的観測だ。


 視認したことがない精霊の話を字として記すことなど、どんな著名な作家であろうと不可能だ。


「んっ……?」


 半ば諦めながらまた一冊流し読みしていると、フェイがわずかに眉を動かした。


「五英傑が揃った、最初の戦い……?」


 フェイが手に取った一冊の書物には、五英傑が一緒にその力を行使した初めての戦いの話が記されていた。

 つまりは、五帝獣が初めて力を合わせて力を振るった時の話。

 封印しているとはいえ、五帝獣と契約しているフェイが興味を持たないわけがない。






 五英傑の五人が同時に揃ったのは、アルマンド王国の辺境にあるとある小さな獣人の村であった。

 彼らは、同じ目的をもってその村に訪れていた。

 それは、王城からの招集に従い王都に向かう最中、宿を求めての事だった。

 当時は今で言う馬車がそれほど普及しておらず、徒歩での移動が主であった。

 自刻は夕刻。とてもだが、今から王都に向かっては危ない。


 最初、彼らは別々の宿に泊まった。

 当然、人間である彼らを迎えることに、獣人たちはひどく嫌悪したという。

 だが、五英傑の誰もが獣人に対して蔑視することはなく、そのことが少なからず獣人たちの気持ちを和らげた。


 だが、獣人たちの村は食料が乏しかった。

 けれど、そんな中でも自身の食料を分けてまで五英傑たちに食事を提供した。

 当然、彼らも獣人たちの生活に余裕がないことは知っていた。

 彼らは、それでもなお食事を提供してくれた獣人たちに感謝した。


 その、夜の事だった。


 その頃はまだ、魔族が大陸のあらゆるところにいた。

 それ故、村に魔族が襲撃してくることはよくあることだ。

 だが、今夜は異常に数が多かった。

 数千を超える魔族。


 その話を聞いた五英傑。

 彼らは、自分だけ逃げることは容易だった。

 如何に帝級精霊と契約しているとはいえ、それ程の大群を相手に戦うことは命の危険を意味する。

 だが、それでも彼らは魔族に向かってその足を動かした。


 魔族が村に襲い掛かる少し前、彼らは、一斉にその村の外で会した。

 その時は互いに帝級精霊と契約しているとは知らない。

 当然、誰もが逃げるように忠告した。

 村に来た時から自分を襲う頭痛に耐えながら。


 だが、そう言い争いをしているうちに、魔族が姿を見せた。

 その瞬間、彼らは一斉に帝級精霊を顕現させた。


 五帝獣が一か所に集った初めての事である。

 それを見て、彼らは一様に苦笑いを浮かべた。

 そして、それと同時に頼もしいと思っただろう。


 だが、焼き尽くし、凍てつかせ、穿ち、沈め、吹き飛ばしたところで、数が多すぎた。


 そんな時、一人こう呟いたという。


「俺たちの力を合わせれば、凄いことが出来るんじゃないか?」


 その一言で、彼らは互いの精霊を一つにした。

 それは、不思議な色をした剣になったと伝えられている。

 赤でもなく、青でもなく、黄でもなく、茶でもなく、緑でもない。


 不思議な輝きを放つその剣は、彼らを安心させた。

 これならいけると。

 そして、彼らは互いに手を合わせてその剣の柄を握ると、振りかぶった。


 後の事は、村の者も語ることが出来ない。

 眩いほどの光が視界を襲い、光が収まるころには魔族の姿は一つもなかった。

 五英傑の前には小さな穴ができて、それが数十年かけて今では小さな湖になったという。


 彼らはその時――――






「一つの剣に……?」


 戦いに至るまでの経緯は多少脚色がされているかもしれない。

 フェイの頭に絡みついたのは、戦いの最中、五体の帝級精霊を合わせて出来た一振りの剣。

 これは、つまりは【アーシェントソード】のことだろう。

 だが、伝えられている剣の色は自身の知っている【アーシェントソード】とは少し違う。

 そして、その剣で放った攻撃。

 これは、フェイも知らない。

 【アーシェントソード】を使って行使する魔法といえば五属性合成魔法の【ライテンション】だが、それを行使した後の惨状は幼いころの魔王との戦いで知っている。

 少なくとも、話にあるように地面に穴が開くだけではすまない。

 それとも、これ自体も何らかの脚色が加わっているのだろうか。

 そんな疑問をフェイは抱く。


「獣人の村……か。一体どこの村なんだろう」


 もしかしたら何か手がかりがあるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きながらフェイは呟いた。


「五帝獣。よくよく考えれば、彼女たちの力は彼女たちに教えてもらったものだ。封印してからは、全く彼女たちの力を知ることが出来ていない」


 今後はもう少し彼女たちの力について調べるべきだな。

 いつか来るであろう運命の時に備えて。


 フェイはそう決意しながら本を閉じて棚になおした。

 そのまま図書室を後にした。


 学園生活。

 短い期間の間に彼には大切なものが多くできた。

 大切なものを失うことの辛さを――彼はすでに知っている。

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