表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
一章 戦慄の魔術師の帰還
8/199

七話

特に何も無かった?入学式から一夜明け、フェイは制服に身を包み支度していた。

朝食は軽く済ませ、精霊学校に向かう。


身体強化魔法をかけ、走って通学しようかと思ったが、ここにきて日が浅いのでゆっくり街並みを眺めながら通学することにした。





教室に入るとすでに何人かの生徒が登校していた。

すると後ろから「フェーイーくーん、グッドモーニング―!」と、アイリスが声をかけてきた。

……なにこれ、すごい既視感が……。


「おはよう、アイリス。早いんだね」

「魔法使ったからね」

「ところでゲイソンは?」

「知らないわよ。遅刻してくるんじゃないの?あいつは遅刻キャラで定着するパターンよ」


えっ、何そのキャラ。嫌だな。


「誰が遅刻キャラだ、くそ女!」

「ちっ、遅れてきたらよかったのに……」

「なんだと!!」

「二人とも、朝から喧嘩はやめなよ」

「昼ならいいのね」

「いや、そういう意味じゃ……」


二人は犬猿の仲、で定着したな……。





授業が始まった。

やはり最初の授業だけあって、皆きちんと授業を受けている。

大体一か月後くらいにはクラスの四分の一くらいは授業中に居眠りをしたりとかするだろうけど……。


「グーッ」


……訂正。

約一名、熟睡してる人がいた……。


「こら、ゲイソン!俺の話が聞けんのか!!」


そう言いながらアーロン先生がチョークをゲイソンに投げつける。

チョークはゲイソンの頭に直撃し、粉々に砕け散る。

しかし、ゲイソンはいまだ起きない。


「お前どんだけ頭かてえんだ!」


アーロン先生が頭を抱えながら叫ぶ。



……驚くのはそこじゃないよ、アーロン先生。

チョークが粉々になる勢いでぶつけられても起きないほうを驚くべきだよ……。


僕は驚いた。

人はここまで熟睡できるのか……と。


先生も可哀そうなので起こすことにする。


「ゲイソン、生徒会長が廊下にいるよ」


言い終わる前に、

「マジか!どこだどこだ!!」

……っと、ゲイソンが叫びながら起き上る。


もちろん、生徒会長はいない。

いるのは、鬼の形相でゲイソンを睨んでいるアーロン先生……。



この後の惨状は、ご想像にお任せする。

ただ、この時の出来事をEクラスの生徒たちは、「赤いチョーク」と名付けた。





授業が終わり昼食をとるため、食堂へ向かう。


「いってー、頭から血が出たぜ、マジで!」

「授業中に寝てるゲイソンが悪いんだよ」

「本当に馬鹿ね」

「何でてめえが一緒に来るんだよ!」

「フェイ君と一緒に食べるからに決まってるじゃない。あんたこそ何でいるのよ」

「俺もフェイと食べるからに決まってるだろ!」


その後も食堂につくまで二人の言い争いは止まらなかった。

ちなみに、メリアも誘ったのだが、やはりボネットの人たちと一緒に食べるらしい。



食堂につき、適当に食事を頼んで席に着く。

午後の授業のことなど、とりとめもないことを話しながら食事をとっていると、不意に僕たちに向かって声がかかる。


「おい!そこは俺が座る!さっさとどけ!!」

……ブラムだった。

彼の後ろには、エリスとメリア、それと見知らぬ女子生徒が二人いた。



ブラムの言葉にいち早く反応したのはゲイソンだった。


「何だてめえ、誰だか知らねえが俺たちが飯食ってるのがわからねえのか!?」

「お前こそなんだ!俺はボネット家長男、ブラム=ボネットだぞ!」


今では、ブラムは長男と名乗っているらしい。


「だからどうした!」

「俺は偉いんだ!お前たちは俺に席を譲れることを誇りに思って、言うことを聞いてればいいんだ!」

「「何だと(ですって)!」」


ゲイソンにアイリスも加わる。


「ゲイソン、アイリス、もうすぐ食べ終わるんだから席を譲ってもいいじゃん」

「フェイがそういうなら……」

「納得はしてないけどね……」


フェイ……という名前に、エリスとブラムが反応する。

しかしそれに気づかないふりをして食堂を出る。



……すれ違いざまにメリアに「申し訳ありません」と言われたのが、頭に残った。



その後も二人はイライラしていたが、今度アイスをおごると言ったら、急に機嫌がよくなった。

……この二人って似てるな。

言ったら殺されるだろうけど……。




授業が終わり、下校のため荷物を片付けていると、メリアが急ぐように教室を出て行った。

大方、ボネットの人たちと帰るのだろう。

自分だけボネットのしがらみから逃れ、自由に暮らしていることに罪悪感を抱きながら、それを忘れるようにアイリスとゲイソンに声をかける。


「じゃあ、僕は帰るね」

「おう、またな」

「また明日~」


その後、教室を出た。





校門付近につくと、ブラムと、三人ほどの男子生徒が、一人の女子生徒に魔法を打ち込んでいるのが見えた。

その近くには、エリスと昼に食堂で見かけた女子生徒二人が、目を伏せながら立っていた。


ボネット家の人間がかかわってるため、周りの人間も見て見ぬふりをしている。



よく目を凝らしてみると、魔法を打ち込まれているのはメリアだった。



僕は心の中で舌打ちした。



――そうだ、何を僕は勘違いしていたんだ。


彼女はもうあんなことはされていないと思った自分がいた。

でも、それは違った。

よく考えればわかることだ。

彼女の立場はあのころと何も変わっていない!


頭の中で、校舎裏でのメリアの悲痛そうな顔がよぎる。


……僕は卑怯だ!

ただ、自分が楽をしたいがために、近くで助けを求めていた女の子のことさえ無視していた。

……あの時、彼女はどんな気持ちだったんだろう。

そう考えると、口惜しさと、悲しさと、何より、自分に対する怒りが募る。



――そうだ、彼女の立場が変わっていないのと同じように、僕の立場も何一つ変わっていないじゃないか!


僕の、ラナさんと過ごした五年間で手に入れた力は、彼女ひとり守ることのできないほど、脆弱なものだったのか……。


違う!脆弱なのは、僕の心だ!


何を恐れることがあるんだ。


――そうだ、何も恐れるものはない!




フェイは決意した!

己の力で、彼女を守ることを。

そして、もう逃げないことを。


だから――





【火の初級魔法 ファイヤーボール】

数十個の火の玉がメリアを襲う。


メリアは目をつむった。

これから起こるであろう、痛みに耐えるために。



……【水の中級魔法 ウォーターウォール】


――刹那、火の球と水の壁が当たり、辺りに水蒸気が発生する。



メリアは、いつまでたっても来ない痛みを不審に思い、恐る恐る目を開ける。


そこには――、



「ごめんね。もう……大丈夫だから」





――フェイは、やっと歩み始める。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ