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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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六十五話

「こちらです」


 フェイがレイラに案内され、一室に通される。

 そのままセシリアとエリスの二人と共にフェイは中に入る。

 それを見送ったレイラは、ごゆっくり……と意味ありげな笑みを浮かべながら部屋の外へと出て行った。


「……」


 レイラに対して警戒を解いていないフェイは、当然視線を鋭くしてレイラを見送る。


「取りあえず、そこに座りましょう」


 セシリアがフェイにそう促す。

 静かに首肯すると、フェイはゆっくりとソファに腰掛けた。


「それで、話なんだけど……」

「ああ、その前に」


 話を切り出そうとしたセシリアをフェイは止める。


「【サーチサークル】」


 室内に、探知魔法を展開して不審物がないかを確認する。


「ん?」


 そうしていると、室内の一カ所から微かに不審な魔力を感じ、フェイは眉をしかめる。

 急に立ち上がったフェイを不思議そうにセシリアは目で追うが、そんなことは意に介さない。


「【エンチャントボティ】」


 違和感のあったところをしっかりと確認するために、目を中心に魔力によって強化する。


「魔術具……?」


 そっと、視界にとらえたある物体を手に取るフェイ。

 そんなフェイの仕草を終始不思議そうに見つめるセシリアたち。

 フェイはその呟きと共にその物体を風の魔法で包み込み、密閉する。

 そのまま、何事もなかったかのように再び席に着いた。


「【ウィンドスフィア】」


 【風の上級魔法 ウィンドスフィア】。

 不可視の風を球状に展開することで、内部で発せられた音を外部に漏らさない魔法。

 所謂結界のような役割をする。

 尚、この魔法は完全に音を遮断できるわけではなく、遮断率は術者の技量に比例する。

 とは言え、フェイクラスにもなればほぼ完全に遮断できるのだが。


「では、始めましょうか」


 準備は出来たと、落ち着いた物腰でフェイは切り出した。


「え、ええ……」


 一度、深く息を吸い込み呼吸を整えるセシリア。

 エリスは姉であるセシリアに一任しているのか、不安げな表情を浮かべながらフェイの様子をうかがうような視線を送る。


「フェイは、ボネット家領内の状況について知っているの?」


 そう、砕けた口調で問うた。


「深くは知りません。何せ、あの日〝殺されてから〟ボネット家に対して興味はありませんでしたし、接する機会もなかった。けれど、先日のブラムの言動やアルナ鉱石などから、おおよその見当はついていますよ」


 が、フェイは努めて他人行儀な口調で返す。


「私も、エリスも最近まで知らなかったの。アルナ鉱石をあれほど保有していたことも、フェイとの決闘が終わってから調べさせたし。まして、領民から基準とされている税率を遥かに超える税を納めさせているなんて、知らなかった」

「そんなことを僕に言って何になるんですか? まさか、自分たちは知らなかったから無関係だと、そう言いたいのですか。それは違う。あなたたちは知らなかったんじゃない。ただ目をそらし、知ろうとしなかっただけだ。かつての僕のように」

「っ……」


 図星だったのか、二人は口を噤み、表情を歪ませる。


「今度の事で、僕は領地を得ることとなった。勿論、ボネット領の移譲になるのですから、領民が疲弊していることは予想している。予期せぬことだったとはいえ、爵位を得てその地の領民を支配する立場になったのであれば、そんな人たちの生活を潤すのは僕の責務です。ですが、それ以外の事には興味がない」

「フェイは……フェイはボネット家に戻ってくる気はない?」

「愚問ですね」


 そう、今更そんなことを言われたところで意味はない。

 話がこれだけなのであれば……立ち上がろうとしたフェイを逃さないように、セシリアは言葉を重ねた。


「例え、父さんやブラムたちがいないボネット家だとしても……?」

「――っ! それは、どういう、意味で」


 言葉に詰まる。

 フェイは心臓が高鳴ることを自覚しながら、やっとの思いで言葉を紡いだ。


「その話に入る前に、聞いて欲しいの」

「……」

「五年前、フェイが殺されかけたことは、私たちは知らなかったの!」

「だから、だから許してほしいと?」

「いいえ。もう、許してほしいなんて思わない。あの時何も知らなかった私たちにも罪はあるもの。それに、あの運命の日、精霊契約の日からあなたを避けていた私たちにも非はある。でもね……」

「っぅ……」


 フェイは、言葉にならない呻き声を上げる。

 この先の言葉を聞きたくない。

 聞けば、自分の中で何かが壊れるような、そんな予感がして。


「でもね、私たちは、フェイのことを愛している! これだけは、忘れないでほしいの……」

「フェイお兄様。私も、お兄様の事が大好きです!」


 今まで黙っていたエリスも、フェイを見つめてそう口にする。

 当のフェイはといえば、俯いたまま何も口にしない。

 黙ったままのフェイを見て、セシリアは話を続ける。


「このままだと、近いうちにボネット家は滅びてしまう。でも、そうなる前にまず領民が疲弊し、果てには死に絶えてしまう。だから、私たちは……父さんたちから、領内の実権を奪う――!」


 明確な意思をもって、覚悟をもってセシリアは続ける。


「だから、フェイにはその手伝いをしてほしいの。父さんたちの居なくなったボネット家を、私たちと一緒に再興してくれない?」


 フェイは、不思議とズボンを握りしめていた。

 この学園に入学してから、フェイを取り巻く環境は良くも悪くも変化していく。

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