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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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六十三話

「……片付ければ片付けるほど散らかっていくのは気のせいだろうか」


 放課後、昼休みに言われた通り生徒会室の隣の空き部屋を掃除するフェイは、そんな言葉を漏らす。

 何処から片付ければよいのか、書物が至る所に積まれている部屋の惨状を見て悩んでいたが、考えても仕方がないので取りあえず机の上から片付けることにした。

 けれど、どける場所がないので床にどけるのだが、必然的に床に書物が積み上げられる。

 そんなこんなで掃除に取り掛かる前よりも散らかって見えるのだ。


「考えるな! 無心で手を動かせ!」


 そんなフェイのつぶやきを拾った生徒会四年、アドニス=オーウェンが怒鳴るように声を上げる。

 彼のボサボサで癖のある髪が、本を持ち上げたりしているうちに一層乱れていく。

 そんなアドニスに、同じく生徒会の三年、ベイル=オーガスが物珍しげな眼を向ける。


「珍しいですね、先輩。先輩はいつもなら掃除なんて面倒だというのに。僕、少し見直しました」

「後輩の前だからな、先輩らしくしないと示しがつかないからなぁ。ああ、そういう意味ではベイルは全然先輩らしくねえか」


 あっはっは……と、陽気に笑いながら仕事に従事するアドニスだが、そんな彼をベイルは半眼で睨みつける。

 とは言え、アドニスには何を言ったところで無意味であることを長年の付き合いから分かっているのか、ぶつくさ文句を呟きながらも片付けに戻った。


「んー、んしょ、この本、重いのですー」


 生徒会三年のアネリ=ロルトは、その豊満すぎる胸に本を抱き寄せるようにして持ちながら立ち上がる。

 暗い室内で、彼女の水色の長い髪はよく映えている。


「あなた方はもう少し静かにすることができないのか」


 ……と、作業が遅々として進まない事への苛立ちが助長したのか、突然七公家の一角、マーソン家の一人息子であるグレン=マーソンが黒縁メガネの位置をただし、きっぱりと七三分けされている黒髪をさらに整えながら声を発した。

 その一言で再び黙々と掃除を続ける。

 ようやく机、ソファなどの上が綺麗になり、続いて床に置かれた書類などの片づけへと差し掛かった。

 そこに至るまでに、途中でブラムが馬鹿馬鹿しいと吐き捨てるように言ってこの場を後にしたのだが、特に誰も止める者はいなかった。

 苦言を呈する者はいたが。

 ともあれ、それらの書類は書庫にしまうことになった。


 書庫があるのならば、最初からそこにしまえばいいだろうとフェイは思ったのだが、どうやら最初は数冊の本を少し置いておく程度の気持ちでこの部屋に置いたのだが、それが何度も積み重なっていくうちに物置と化してしまったらしい。


 と、ここまでで一日目の作業は終了。

 フェイの見立て通り、作業は翌日の放課後に持ち越しとなった。


「じゃあな、フェイ」

「フェイ君、また明日~」


 生徒会の先輩方は足早に立ち去った。

 その後、ゲイソン、アイリスもフェイに挨拶をしながらこの場を後にした。

 そんな感じで、この場にはフェイとエリス、そしてセシリアの三人しかいないわけだが。


「それでは、僕も失礼します」


 努めて他人行儀な口調でセシリアたちにそう告げ、帰ろうとするフェイ。

 だが、案の定というべきか、セシリアとエリス、二人はほぼ同時にフェイを引き留める声を上げた。


「フェイ、待って!」

「フェイお兄様、お待ちください……」


 その声に足を止め、少し考え込む素振りを見せてから、フェイはセシリアたちの方に向き直った。


「何ですか?」

「その、今から少し時間はある?」

「ないですね。メリアが待っているので」

「どうしても、話したいことがあるの!」


 少しの時間差もなく答えたフェイに、セシリアは少し声を荒げながら詰め寄る。


「しつこいですよ。そもそも、僕からすればあなた方と話すことは何を置いても無意味です。興味もない」


 取り付く島もないフェイの口撃に、セシリアは俯きながら下がる。

 それを見て今度こそ立ち去ろうとしたフェイだが、視界の隅に涙目で自身を見つめるエリスが映り、その動きを止める。


「……」


 黙ったまま、フェイは天井を見る。

 そして、そのまま口を開いた。


「明日であれば、いいですよ」

「えっ?」


 突然フェイの口から紡がれた言葉に、セシリアとエリスは戸惑いをあらわにする。


「明日、生徒会補佐会室の掃除が終わった後なら、構わないです。それでいいですか?」

「ええ、勿論!」

「フェイお兄様……!」


 嬉しそうに声を発する二人を見て、フェイは思わず目をそらす。

 なんというか、フェイは無性にイライラしていた。

 その理由は説明できないが、やはり、この上なく腹が立っていた。


「それでは、今度こそ失礼します」


 エリスたちの話を受け入れたのは、ただの気まぐれだと、そう自身に暗示させるかのように心の中で幾度も呟きながら、フェイは今度こそその場を後にした。

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