六話
講堂に着くと、すでにほとんどの席が埋まっていた。
前のほうの席を見ると、ブラムたちが父たちと一緒に座っていた。
メリアはボネットの人たちと一緒に座るよう言われているらしく、申し訳なさそうな……そして名残惜しそうな顔をしながら僕と別れた。
しばらく周りを見ていると、アイリスが手を振っているのに気付いた。
「フェイ君、こっちこっち!」
「あっ、席取っといてくれてありがとう」
「いいのいいの。ほら、早く座ったら?」
「うん」
僕はアイリスとゲイソンに挟まれるように座る。
……何故挟まれるように座らされたかは、分かると思う。
この二人、多分卒業してもこのままだろうな……。
丁度式が始まる頃だったらしく、ゲイソンに「危なかったな」と言われた。
本当にその通りだ。
遅れて入ってくるのは恥ずかしいし、なにより目立つ。
目立たず、静かに、ひっそり過ごす。
これが僕のこれからの学校生活におけるモットーだ。
しばらくすると、檀上が明るくなり、銀髪ツインテールの女の子が、横から入ってきて演台に立った。
そして、「私が学園長のジェシカ=フリエルです」と言った。
会場内からは大きなざわめきが聞こえた。
それもそのはず、彼女は身長が150cm程しかなく、14歳くらいに見えるからだ。
近くに座っていた貴族の親御さんが、「ありだな……」っと、呟いていたのを聞いてしまった。
あの貴族、大丈夫なのかな……。
「おそらく今この場にいる人のほとんどは、私がまだ子供に見えてると思いますが……私は21歳です!」
更にどよめきが強くなる。
僕は、容姿から想像する年齢と実年齢の差にも驚いたが、何より僅か21歳で精霊学校の学園長を任されていることにも驚いた。
「若いと思った人もいると思いますが、任されるだけの実力はありますのでご安心ください」
……図星だった。
きっと、過去にも同じようなことを聞かれたりしたのだろう。
「さて、この学校は知っての通り精霊術師と魔術師の育成機関です。魔族から自分の身を守れるようになるため、更には大切な人を守れるようこの学校で過ごす六年間、自分に厳しく、過信せず己の力を磨いていきましょう。我が校に在籍するすべての生徒が、切磋琢磨し、有意義な学校生活が過ごせることを願い、私の挨拶とさせていただきます」
会場からは拍手が上がった。
その容姿からは想像できない、凛とした……心に残る挨拶だった。
――その後生徒会長が挨拶をした時、僕は横目で、食い入るような目つきで生徒会長を見ている友人の姿を見ていた。
ただ、副会長の挨拶がなく、顔を見ることができなかったことには落ち込んでいたが……。
入学式が終わり、自由解散になった。
僕はボネットの人間と顔を合わせないように、足早に会場を後にした。
僕は学校から徒歩30分のところに部屋を借りている。
ラナさんの家からだと何日もかかるし、精霊学校には寮が存在しないのでやむなしである。
幸い、生活費に関しては毎月ラナさんから送られてくることになっている。
――ただ、このままではヒモになってしまうのではないかと不安になってきた僕は、そのうちギルドにでも行って自分の生活費は自分で稼げるようにしようと決意した。