表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
67/199

五十九話

「ようやく来たか……」


 アスモディはフェイの【アーシェントソード】を【サマークソード】で受けながら、不意に地上にできたドーム状の黒いオーラに視線を落とす。

 黒いドームの中には、フリールを含む五帝獣とラナが微動だにせず囚われていた。

 ドームの外で彼女たちを悠然と眺めていたゼルバは、アスモディに視線を向ける。

 それに対してアスモディは不敵な笑みを浮かべながら、頷いた。


「もう飽きてきたな。そろそろ終わらせるとしよう」

「つぅ――……」


 先ほどまでとは比にならないほどの魔力がアスモディの体から放出され、その重圧に耐えられず鍔迫り合いの体勢から距離を取るフェイ。

 アスモディへの警戒を緩めないまま、フェイもまた地上を見る。


「あれは……!」

「あの結界内に囚われたものは、何人であろうと自身の意思を貫くことは出来ぬ」

「馬鹿な――……」


 帝級精霊であるフリールたちの自由を奪うことの出来る魔法があるわけがないと、怪訝を抱く。

 が、全く抵抗を示さないフリールたちを見て、アスモディの言った事が本当であると理解する。


 ならば……と、【アーシェントソード】で結界を切ろうと振り上げて構えるが、警戒していたアスモディが自身に向けて【サマークソード】の剣先を向けたのを見て、アスモディに向かい直る。


「助ける必要はない。貴様たちは一様に死ぬのだからな」

「ぐっ……」


 アスモディが放ってきた黒い玉を斬りながら、フェイもまた【アーシェントソード】の白いオーラを放つ。

 フェイは先程までと同じ剣戟、魔法を行使しているが、徐々に押され始めその表情に焦りが浮かび始める。


「どうした? 段々力任せになってきているぞ?」

「――っ、うるさい!」


 図星を指され、【アーシェントソード】を大振りにアスモデイに斬りつける。


「何!?」


 しかし、その瞬間アスモディが黒い闇となり、それがフェイを覆う。

 地上にいるラナたちと同じように黒い球状の結界に包まれたフェイ。

 だが、フェイを包む結界は、ラナを包む結界と違い身動きがとれる。

 しかし、地上の結界は半透明なのだが、フェイを包む結界は黒い靄が纏わりついて外を見ることが出来ない。


「どこだ、どこにいる!」


 暗闇に視界を妨げられ、フェイは焦りながら【アーシェントソード】の刀身に火を纏う。

 と同時に、火の玉を数十個空中に浮遊させ、明かりの代わりにして視界を確保する。


「余はここだ」

「――っ!」


 アスモディの声をした方を向き、同時に【アーシェントソード】を構える。

 一瞬アスモディの姿を捉えはしたが、同時に黒い闇に包まれ姿を見失う。


「どうした、ここだぞ?」

「くっ……」


 フェイを挑発するように声をかけて現れては消え、現れては消える。

 同じようなことが続いていくうちに、フェイの焦りはより大きなものへとなっていく。


「ぐずぐずしていると、地上で身動きの取れない貴様の大事な者たちが、無事でいられるとは限らないぞ」

「なっ――!」


 フェイの懸念をアスモディにつかれ、フェイはがむしゃらに【アーシェントソード】を結界に向かって斬りつける。


「その程度で余の作り出した結界が壊れることはない。貴様は、貴様自身の弱さのせいで大切な者を傷つけることになるのだ」

「……めろ、やめろ!!」

「守りたいのなら、余を殺すことだな。余を殺しさえすれば、この結界は解かれる」

「――っ!」


 その言葉で、表情を険しくしてアスモディを殺そうと力を溜め始めるフェイ。

 全てはアスモディに誘導されているとは気付かずに。


「余はここだ」

「……っ」

「余はここだ」

「くっ……」


 アスモディがあらゆるところに現れ、方向感覚が徐々に失われていくフェイ。

 フェイが方向感覚を失ったタイミングで、アスモディがもう一度現れる。


「どうした、早くせねば地上の者達を殺すぞ。余はここだ」

「逃がさない! 【ライテンション】!!」


 【アーシェントソード】から、火、水、風、土、雷が一つとなって放たれる。

 所謂五属性の合成魔法。

 本来であれば不可能である五属性の合成を、【アーシェントソード】から放つ。


「ふっ……」


 アスモディは、静かに口角を上げる。

 フェイが【ライテンション】を放った瞬間、結界が解かれた。


「なっ……!」


 それと同時に、フェイの視界に映っていたアスモディは消え、代わりに、【ライテンション】が地上にいるラナたちに向かって放たれていることを認識する。


「しまった……!」


 爆音とともに、地上で煙と共に土塊が舞い上がる。

 と同時に湖は蒸発し、周りの木々は放電によって枯れ果てる。

 バチバチと音を立てながら、その地上を覆う煙をどけるかのように風が荒れ狂う。


 地獄のような焦土と化した地上を見て、フェイの表情が恐怖で染まっていく。

 その恐怖は、大切なものを失う事への恐怖と、大切なものを自分の手で傷つけてしまったことへの恐怖。


「皮肉だな。貴様はその弱さゆえに大切な者を守るどころか傷つけてしまうとは」


 タイミングを見計らうように、アスモディが囁く。


「違う……」


 僕は、この力を手に入れた時、大切な人を守るために使うと、決めたのに。

 こんなことに、こんなことに――


「アアッ……ウアアアッ!!」


 フェイの叫び声。

 それに呼応するかのように、自然が荒れ狂う。

 この森のいたるところで竜巻が発生し、地割れが起きる。

 まるで、フェイの心を体現するかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ