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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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五十八話

「ぐっ――……」


 魔王、アスモディ・ベル・アンビルとの戦闘の最中、距離を取りしばしの間互いに膠着状態でいると、不意にフェイが呻き声と共に頭を押さえる。


「なんだ……頭が……」


 頭が破裂しそうな、その表現すら生温いと感じるほどの痛み。

 余りの痛みにアスモディに向けていた警戒の目をそらし、空中で俯きながら【アーシェントソード】を持っていない左手で頭を押さえる。

 そんなフェイの姿を見て、アスモディは地上へと視線を向けた。


「ふむ。やはり大人しくしてはくれぬという事か。まあ良い。それは予想していたことだ」


 右手に禍々しいオーラを纏う自身の側近、ゼルバを見て、アスモディは詰まらなそうにそう呟く。


「ぐっ……どういう、意味だ……!」

「余の側近、ゼルバをあの女に向かわせたのは、逃げ出さないようにするだけの事。あの女が抵抗しないのであれば、ゼルバもわざわざ力を振るう必要はなかったのだ」

「抵抗……?」


 アスモディの言葉に、フェイは尚も痛む頭を押さえながら地上を見る。

 そこに立つゼルバの姿を見て、フェイは視線を鋭くした。


「あの、オーラ……」

「ふん、やはり気付いたか」

「いや、でも、あり得ない……」

「あり得ない? 何故そう言える。貴様たちが行使する魔法や精霊魔法も、発見されるまではあり得ないものだったのだろう? 余達もまた、それを発見しただけの事」

「……っ」


 アスモディに言い返され、表情を更に表情を険しくしながら地上を見る。

 それは、ラナは勿論の事、精霊では最高位を誇る帝級精霊であるフリール達の身さえも案じるものだった。


「他人を心配している暇があるのか?」


 アスモディが、地上ばかりを見るフェイにそう声をかける。

 その声を聞いたフェイは、反射的にアスモディへと視線を向けた。


「確かに、今はそんな暇はない……」

「その通り。戦闘中に他の事に意識を向けていては――死ぬぞ?」

「――っ!」


 アスモディの気迫に飲まれかけるフェイ。

 だが、すんでのところで何とか持ちこたえる。

 と同時に、先ほどまでの頭痛も幾分か和らいだ。


「一つ、聞きたい」

「……何だ? 折角だ、聞いてやろう」

「どうして、今の間に僕を攻撃しなかった」


 それは、至極当然の疑問だった。

 頭を押さえ、アスモディから警戒を解いたフェイ。

 そんなフェイに攻撃を当てることなど、アスモディの力を以てすれば容易だ。

 だが、何故かアスモディはそうしなかった。


「ふん。その答えは簡単だ。無防備な貴様に攻撃をしては、殺してしまうだろう?」

「えっ……」


 アスモディの答えに、フェイは思わず戸惑いの声を上げる。

 それもそのはずだ。アスモディの答えは明らかに矛盾している。


「確かに、先程貴様を攻撃していれば、殺せた。だが、そんなことをすれば都合が悪かろう。余の計画の為には、貴様にただ死なれては困るのだよ」

「計画……」


 先ほどから何度もアスモディが口にする言葉。

 だが、アスモディの計画が災いをもたらすものであることは、先程アスモディ自身が語った思想から容易に分かる。

 ならばこそ、フェイはこう口にする。


「なら、やはりお前はここで死ぬべきだ――!」

「ふん、やれるものならやってみるがいい」


 互いに再び距離を詰める。

 空中で再び剣戟が続く。

 幾度となく【サマークソード】と【アーシェントソード】の刃が交わる。

 だが、互いにその刃に綻びを見せることはない。

 むしろ、どちらもその刃に纏う白と黒のオーラを増していく。


「やはりか、やはり勝てぬか」

「……?」

「それもそうか、そうだろうな」


 アスモディの口振りに、問いを投げようかとフェイは思うが、未だ剣戟の最中。その余裕はない。


「だが、だからこそ今倒さねばならぬのだ。使用者が未熟な、今のうちに――!」

「――っ!」


 アスモディの持つ【サマークソード】の纏う黒いオーラが、刃先から離れ空中に展開される。

 それは徐々に無数の黒い玉となって、男の背後に展開される。


「まだ……か」


 ちらりと、アスモディは地上に視線を向ける。

 そこには、五帝獣とゼルバが互いに死力を尽くしていた――。






「ふんっ――!」

「ぐっ……」


 ゼルバが右腕に纏った禍々しいオーラを前方に放つ。

 地面を抉りながらラナたちへと放たれたそのオーラを、フリールが氷の壁を展開して防ぐ。

 だが、それは決して余裕で防げてるものではなく、フリールは苦悶の表情を浮かべながら氷の壁を展開し続ける。


「フリール!」


 それを見て、シルフィアが風の渦を未だ氷の壁と拮抗している黒いオーラに上からぶつけ、消し去る。

 それを確認してフリールは氷の壁を解除すると、フレイヤが一メートルはゆうに超える炎の槍を、セレスとライティアが土と雷の槍をゼルバに向けて放つ。


「ただでさえ厄介だというのに、その全員を相手取るのはさすがの私でも厳しいものがあるのですが……」


 フレイヤたちから放たれた三本の槍を一瞥したゼルバは、自身の前方に右手をかざすと、オーラを盾状に展開する。


「嘘……」


 本来であれば、地面に小さなクレーターを作ることの出来る威力を持つフレイヤたちの攻撃は、ゼルバの展開したオーラに吸い込まれるようにして消滅した。


「驚いている暇は、ありませんよ――!」


 ゼルバが右腕を地面につけると、それを中心に地面に闇が広がっていく。

 それを見て、セレスもまた地面に手をつく。


「なに、これ……!」


 額に汗を浮かべながら、セレスはゼルバが支配している黒い領域を支配し返そうとする。

 だが、両者の領域の境界は拮抗しあったまま。

 土を統べる土帝獣、セレスの支配並みの支配力を見せつけるゼルバを見て、セレスは勿論の事、シルフィア達もこの男が只ならぬ力の持ち主であることを理解する。


「フリール、フレイヤ、ライティア!」

「分かってるわ!」

「勿論!」

「うん……!」


 フリール、フレイヤ、ライティア。

 シルフィアの声に返すと、それぞれが世界の、自身が支配する領域へと干渉を始める。



――――炎の剣が、氷の剣が、風の剣が、雷の剣が、土の剣が。



 剣の形をした彼女たちの象徴がその場に現れる。

 各領域の支配者たる彼女たちならば、天変地異を起こすことも出来る。

 だが、それでは近くにいるラナが危ない。


 彼女たちは、それら五つの剣を束ねると、地面に手を当てて無防備なゼルムに向ける。


 そして、それをゼルバに放った瞬間――――――

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