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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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五十五話

「ふんっ――!」


 男が【サマークソード】を横に一閃したと同時に、刃先から纏っていた黒いオーラがフェイ達に襲い掛かる。

 だが、フェイはそれを見ると、フリール達の前に出て、右手に持っていた【アーシェントソード】で斬り落とした。

 斬られたオーラの残り香がフェイの周囲の地面を削り、音を立てる。

 迎撃したと同時にフェイの後ろにいたフリール達が一斉に精霊魔法を行使した。

 精霊が、特に帝級精霊が現界した状態では、詠唱も、名唱も必要ない。

 彼女たちが魔法を放つと同時に口にしたのは、一様にフェイは守る……その言葉だけだった。

 フェイはそれを聞いて思わず頬を緩ませたが、すぐにその弛緩した顔を引き締め、フリール達が放った魔法の行き先……男を見る。

 炎、氷、土、風、雷……五種類の剣の形状をしたそれらの魔法は、男へと真っ直ぐ襲い掛かる。

 男はそれを一瞥すると、【サマークソード】を天へと掲げる。

 と同時に、フリール達が放った魔法が男に着弾し、爆音とともに煙が雲のように生じ、男の姿を隠す。

 そんな男の様子を見ても、傍らに浮かび立つ執事風の男は涼しい顔でその場に佇む。

 フリール達は、魔法を受けて地に落ちるであろう男の姿を幻視し、煙の下を注視するが、男が一向に落ちてこない。

 まさかと思い再び見上げる。


「ふんっ、契約者を変えて尚、力は衰えぬようだな」

「――っ!」


 男の声が響き渡ると同時に、煙が何かにはじかれて、視界が晴れる。

 そこには、【サマークソード】を天へと掲げたまま、そこから発せられる黒いオーラに自身を包み、身を守っていた男の姿があった。


「そんな……フリール達の魔法が防がれるなんて……」


 五帝獣、言わば最強の称号を持つ彼女たちの魔法が完全に防がれ、驚愕するフェイ。

 だが、そんなフェイとは対照的にフリール達は予想していたかのように、表情を変えない。


「あんたこそ、一段と力を上げたんじゃないの?」


 フリールが苛立たしげに口にする。

 いつもとは違う、刺々しいその物言いに、男が只ならぬ人物であることを理解し、警戒を更に高めるフェイ。

 そして、ボロボロになっているラナを一瞥し、小さく彼女たちに呟いた。


「フリール、セレス、ライティア、シルフィア、フレイヤ……」

「分かっているわよ」


 全員の名前を呼んだフェイに、優しげな表情を浮かべて応えるシルフィア。

 フリール達も皆頷く。


「……ラナさんは頼んだよ」

「分かったわ。フェイも頑張って」


 目配せをしたと同時に、フリール達が一斉にラナの元へと走り出す。

 そう、フェイはフリール達にラナを守るよう指示したのだ。

 だが、男がそれを見逃すはずがない。


 ラナの方へと走り行くフリール達を目で追いながら、【サマークソード】再び構える男だが、それこそフェイが見逃すはずはなかった。


「ちっ――!」


 フェイが【アーシェントソード】を構えたのを視界の隅に捉えた男は、すぐさまフリール達を追うのをやめて、フェイに向き直る。


「ふんっ!」

「はあっ!」


 同時に放たれた白と黒のオーラは、男とフェイの間で音を立てながら拮抗する。

 これらは、もはや魔法ではない。

 拮抗しあうそれらを見ながら、フェイは魔法を行使した。


「【ウィンドフライ】」


 フェイの足もとに風が吹きおこり、その後フェイが宙に浮く。


【風の最上級魔法 ウィンドフライ】。

 自身の足元に風をおこし、空を飛ぶこの魔法だが、その制御には相当なテクニックを要するうえ、常時魔法を発動しているため、魔力の消費が激しい。


 速度を上げ、男へ正面から向かうフェイを見て、男もそれを受けてたつのか、その場で構える。

 そして、傍らに控えていた執事風の男に小さく囁いた。

 それを受け、浅く頭を下げたその男は、ラナの方へと向かおうとした。


「いかせるかっ!」


 それを阻もうと、フェイは標的を男から執事の方へと変えた。

 ……が、それは阻まれる。


「それは余のセリフだ。余が見す見す貴様を行かせるとでも思ったのか?」

「くっ――」


執事へ振り下ろした【アーシェントソード】は、それに割り込むように現れた男の持つ【サマークソード】によって受けられ、互いに反発しあいながらバチバチと音を立てる。


「何故、ラナさんを襲った!」

「……そうか、貴様は何も聞かされていないのか。余が何者であるのかも、知らぬわけだ」


嘲笑しながら語る男に、言い知れぬ苛立ちを抱くフェイ。

無意識の内に、【アーシェントソード】を握るその手に力がこもる。


「まずは名乗るべきであったな。余の名はアスモディ・ベル・アンビル。この世の人間共を支配する男……魔王だ」

「魔王……!?」


 男の、魔王の突然の告白に、驚きの声を上げるフェイ。

 真偽を確かめる術はなかったが、地上にいるラナを見て、彼女が頷いたのを確認し、本当であると確信する。

 と同時に、何故こんなところに、そしてラナを狙ったのか……その疑問が再燃した。


「だとすれば、尚の事、なぜ魔王がこんな森に、それもラナさんを襲った!」

「あの女とは少々縁があるのだ。いや、正確にはあの女の母親に……だが。どちらにせよ、余の計画に邪魔なのには変わりない」

「計画?」

「先ほど言ったではないか。この世の人間共を支配すると。いや、こう言った方がいいか。この世界から、人間と言う種を一掃する……と」

「一掃……!」


 魔王がそう呟くと同時に、確かに【サマークソード】の黒きオーラの強さが増した。

 【サマークソード】と【アーシェントソード】、この二本の持つ意味も、フェイはこの時知ることになる。

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