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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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五十四話

 湖に近付くにつれ、何かが焼けこげる臭いがフェイ達の鼻を突く。

 心なしか、周囲が暗くなってきたような気さえもする。

 だが、それに臆すことなく、フェイ達はそのまま歩を進めた。


「やっと着いた……」


 木々をかき分けた先に見えたのは、いつもの湖。

 それを見て、先程までの違和感は杞憂だったかと、そう安堵したフェイを嘲笑うかのように、それは突然起こった。


 言葉に出来ぬほどの轟音があたりに響いたと思うと、フェイ達が立っているところから湖をはさんで奥の方に何かが落ちた。

 そこでは土煙が立ち込める。

 空から降って来たのかと、そう思い空を見上げたフェイは、明らかに非日常的なものを目にした。


「……っ」


 誰もが息をのんだ。

 空中に、悠然と浮かび両手を広げ、急に高笑いを始めた男を見て。

 その男のまき散らす、どす黒い魔力を見て。

 驚き、声も出せないでいると、男が高笑いを止めて語りだした。


「どうした。その程度か? その程度の実力で、よくも余に刃向ったものよ」


 明らかに、先程何かが落ちたほうを見て語る男。

 フェイも再びそちらを見たが、土煙がいまだ立ち込めていて確認できない。

 そんな中、男が急にフェイを見た。


「こんなところで何をしている、小僧」


 明らかに敵意を持って呟かれる。

 そのあまりの殺気に、フェイは思わず気負いした。

 そんな中、シルフィア達がわなわなと肩を震わし始めた。


「答えぬか。んっ、よく見れば奥にまだいるな。女が五人……貴様ら――!」


 シルフィア達を見た男は、急に目を見開いた。

 そして、再び高笑いを始めた。


「くっくっくっくっく……ふはははははは……! そうか、貴様たちがここにいるということは、なるほど。余の運も尽きてはいないという事か……」

「何を、何を言っているんだ……?」


 状況が掴めないフェイは、戸惑いながらそう呟く。

 そんな中、急に血相を変えてフリールがフェイに向かって叫ぶ。


「フェイ! 今すぐ魔力を放出しなさい!」

「急に何を……」

「早く――!」


 フリールがそう叫んだ瞬間、フェイ達に向かって黒き魔力の塊が放たれる。

 フリールはそれを氷の壁を展開して防ぐが、苦悶の表情を浮かべている。


「フェイ。あの男は私たちの敵です」

「シルフィア?」

「あの男は、今この場で確実に仕留めなければなりません」

「え、そんなことを急に言われても……」


 突然の事で事情も分からず尚も戸惑うフェイ。

 だが、そんなフェイの耳に、見知った声が響く。


「フェイく……ん」

「ラナさん?」


 ラナの声が聞こえた方を見ると、そこは先程まで土煙が立っていたところだった。

 だが、その土煙は今までの間に収まり、代わりに一人の女性が立っていた。


「ラナ……さん。え、どうして……?」


 そこに立っていた女性はラナ。

 だが、その綺麗な金髪は土で汚れ、服は所々破れ、その下の肌からは血が流れ出ている。

 明らかに普通ではない。


「そうか、貴様たちは知り合いだったのか。なるほど、これは実に運がいい。まさか、余の敵たる貴様らを一度にこれだけ葬り去ることが出来るとはな」


 言いながら、男は右手をラナへと向ける。

 そして、その手に黒き魔力が集まり始めた。

 今、この男が何をしようとしているのか、フェイには分かった。


「みんな!」


 フェイが叫ぶと、シルフィア達は一斉に男へ敵意を向けながら魔力を放出する。

 同時に、フェイもまたその膨大な魔力を放出した。

 木々がざわざわと音を立てながら揺れる。

 その魔力に気付いた男は、標的をフェイへと変えた。


「その魔力……なるほど。まさか、小僧が一人で五体もの帝級精霊と契約しているとはな。いやはや、余は本当に運がいい。これほどまでに未熟な小僧一人を殺すだけでよいとは」

「陛下、油断為されませぬよう……」


 何処からともなく現れた、執事風の男が、そう諌言する。

 陛下と言われた男は、分かっていると答えながら詠唱を始めた。

 と同時に、フェイもまた、詠唱を始めた。


『――我は汝らと契約せし者 汝らの力すべての行使を認められ、委ねられし者』

『――余は、この世のすべてを支配する者 万物を下に敷く者』


『我は傲慢にして不遜 その力をもって、我に降りかかるあらゆる厄災を祓う者なり!』

『余を妨げる者に生は無し 余が大義を以てそのすべてを葬ろう!』


『我はすべての執行者にして、絶対の支配者 与えられるは神の剣』

『余が振るうは、神の裁き 余の剣に込められるは神の意志』


『万物を掌る神剣よ 今此処に、我はそれを求めん!!』

『その象徴たる神剣よ 今此処に、余はそれを求めん!!』


「【アーシェントソード】!」

「【サマークソード】」


 神剣と神剣。

 共に神の御業を成しえるその剣がこの場に二本顕現した。

 フェイの持つ、万物を掌る神剣【アーシェントソード】。

 男の持つ、万物の支配を象徴する神剣【サマークソード】。

 その性質は二本とも同じもの。

 この二本の剣は、ぶつかってすらいない今でさえ、互いを嫌悪するかのように【アーシェントソード】は白きオーラを、【サマークソード】は黒きオーラーを放ち、その境界線上でバチバチと音を立てる。

 並みの者がこの場にいたのであれば、一瞬にして塵芥となっている。


――神話の対決が、この小さな森で行われてようとしていた。

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