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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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五十三話

「フェイー、何かしない?」


 ライティアとセレスの二人を起こしたフェイは、彼女たちと一緒にあらかじめラナによって用意されていた昼食を取った。

 その後食器を片づけたフェイ達は、手持無沙汰になる。

 とは言え、別段することもないわけで、家で大人しく本でも読んでいたのだが、とうとう痺れを切らしたのか、フレイヤがフェイに声をかける。

 フェイが読んでいた本から顔を上げてフレイヤを見ると、彼女は暇そうに頬を膨らませながら、床に敷かれているカーペットをいじり、拗ねていた。

 そんなフレイヤを見て、フェイは本を閉じながら立ち上がった。


「うーん、ラナさんには留守番をしておくように言われたからね」

「こんなところにある家にわざわざ泥棒に来るやつなんかいないって! ねっ?」


 フレイヤの言う通り、こんな森の中心に建てられている家にわざわざ盗みを働きに来る者はいない。

 ラナが留守番と言ったのも、それは単に母が出かけるときに子に告げるものであって、真に留守番をしとけという意味ではない。

 そんなことは分かっているフェイは、しばし逡巡する。

 不意に顔を上げ、同じ部屋にいたシルフィアに判断を求めるフェイ。

 そんなフェイの視線に気付いたシルフィアは、その豊満な胸を持ち上げるように腕を組みながら、困ったような表情を浮かべつつそれに答える。


「確かに、このまま家に居るというのもつまらないわね」

「でしょー!」


 思わぬ援軍に、フレイヤは喜色に満ちた表情を浮かべながら、その場で跳びはねた。


「んー、じゃあ、少し外の散歩でも行こうか」


 シルフィアにまで賛同されては反論の余地はない。

 フェイは大人しく、そう言った。

 尤も、フェイ自身外に出たいと思っていたので、渡りに船であったが。

 外で土遊びをしていたライティアやセレス、フレイヤを誘い、フェイは少し家を空けて森の中を散策することにした。






「暗くなる前に帰るよ? ラナさんがいつ帰ってくるか分からないんだから」

「分かってるわよ」


 フェイが告げた言葉に、不愛想に返すフリール。

 全身が青色を特徴としている彼女は、緑が多いこの森の中では、美少女であることも相まって、どこか神聖なものを感じさせる。

 とは言え、それは他の四人の女性にも言えることだ。

 そんな五人の女性を引き連れて同じく歩を進めるフェイは、彼女たちほどこれと言った何かを感じるものはない。

 少なくとも今は。


「今から行けるところと言えば、少し先にある小さな湖だけど」

「そこがいいわよ!」


 氷の帝級精霊たるフリールは、その属性上やはり水場を好むのだろう。

 行先に湖を口にしたフェイに、物凄い勢いで賛同の声を上げる。


「えー、あそこはやだよー!」


 それに異を唱えるのは、炎の帝級精霊であるフレイヤ。

 彼女はやはり水場を好まない。

 火と水。対極に位置する属性の精霊である彼女たちの仲が悪いのは、それが起因しているのか。

 それは定かではない。

 と言っても、フレイヤが反論しようとも今から行けるのはフェイが提案した小さな湖だけだ。


「フレイヤ、今日は我慢してくれないかな」

「ぶーっ!」


 頬を膨らませて拗ねるフレイヤ。

 フェイの左腕を掴みながらそうする彼女を、同じく右腕を掴んでいるフリールが自慢げに微笑む。

 それが、フレイヤの機嫌を損ねるのを助長した。


「フレイヤ。仕方がないでしょう?」

「えー。そんなこと言ってもあそこはじめじめしてるもん。行きたくないよ」


 フレイヤも譲る気はないらしい。

 困り果てるフェイとシルフィア。

 その傍らで、セレスとライティアは走り回っていた。


「――っ!」


 突然、セレスとライティアは走り回るのを止め、二人とも同じ方向を見る。

 それは、シルフィアやフリール、フレイヤも同じだった。


「フェイ……」


 右腕を掴んでいたフリールが、フェイに真剣な表情を浮かべながら声をかける。

 彼女が真剣な理由は、フェイもわかっていた。


「分かってる。今、湖の方で変な魔力が放出された」

「どうするの?」


 シルフィアが問う。

 その問いに、フェイは直ぐに答えた。


「行こう。この魔力の原因が何なのか気になる。それに、僕の勘が告げている」

「勘?」


 フレイヤがフェイの顔を見ながら聞く。


「うん。湖に、あそこにいる何かは絶対に放置してはいけない」


 フェイのその一言に、五人は一様に微笑む。


「心配する必要はないわ。あんたは私が守ってあげるから」


 フリールが言うが、それに食いつくかのようにフレイヤが声を上げた。


「私! 私がフェイを守るの!」

「あんたの出る幕はないわよ!」


 再び始まる口論。

 いつの間にか二人はフェイから手を離し、互いの頬を引っ張り合っていた。

 そんな中、再び両腕に軽い重みを感じたフェイは、そちらに視線をうつす。

 見ると、いつの間にかセレスとライティアが先ほどまでのフリールとフレイヤのように腕を掴んでいた。


「お兄ちゃん、私が守る……」

「私……も……」


 二人のその言葉に微笑みながら顔を上げると、シルフィアがフェイを見て微笑む。

 そして、口を開いた。


「勿論、私もあなたを守ります。フェイ」

「うん、ありがとう……」


 いまだに喧嘩をしているフリールとフレイヤを宥めながら、五人を引き連れてフェイは湖へと向かう。

 その顔に不安の色はなく、むしろ、笑顔が浮かんでいた。

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