五話
教室での先生の感動?のスピーチ的なものが終わり、その余波が収まると先生が講堂へ向かうよう促した。
僕はゲイソンとアイリスを誘って一緒に講堂へ向かおうとすると、突然後ろから声がかかってきた。
「あ……あの!」
遠慮がちに声をかけてきたのは、癖のない黒髪を腰あたりまで伸ばしたきれいな女の子だった。
僕は彼女に見覚えがあった……。
昔、僕が精霊契約をする前のこと。
――彼女はよく、分家の子たちにいじめられていた。
それこそ、僕が受けたような精神的なものだけではなく、肉体的なものだった。
魔法の練習台にされ、蹴られ、殴られていた……。
そのいじめに、弟のブラムも関与していたことも知っていた。
なんでも、彼女は同年代の子たちが初級魔法を使える中、彼女だけが唯一最下級魔法しか使えなかった。
幸い、僕が注意すると彼らはすぐにやめた。
だが、僕がいないところでいじめを続けていたことも知っていた。
彼女はいつも、僕が止めに入った後には地面に傷だらけで横たわっていた。
その頃の僕は回復魔法を使えなかったため、回復魔法を使える魔術師のところまでおんぶをして連れて行っていた。
それからというもの、僕は彼女と一緒に本を読んだり、魔法の練習をしたりして、可能な限り彼女のそばにいた。
そう……彼女は確か分家の……、
「フェイ様……ですよね?お忘れですか?わたしです、メリア=ファミスです!」
――そう、メリアだ……。
まずい、ここで話を続けているとゲイソンたちに感づかれるかもしれない!
「……ゲイソン、アイリス……悪いけど先に行っててくれる?僕はこの子と話があるんだ」
「お……おう、分かったぜ!」
「席はとっとくからねー」
ゲイソンたちと別れた後、僕たちは校舎裏に来た。
……さて、どうしようかな。
メリアになら教えてもいいかな。
いや、この子は分家だ……ボネットとの関わりも深い。
下手に洩らすわけにもいかないしな……。
メリアには悪いけど、誤魔化すしかないか。
「えっと……ファミスさん、だったよね?僕たちどこかで会ったことあったかな?」
「えっ?フェイ様……ですよね?」
「確かに僕の名前はフェイだけど、様付けされるほど偉くはないよ」
「えと、その……フェイ=ボネット様じゃないんですか?」
「僕の名前はフェイ=ディルクだよ。それに、フェイ=ボネットって人は死んだんでしょ?」
……そう、世間的にもフェイ=ボネットは魔獣に襲われ死んだことになっている。
もっとも、精霊契約に失敗したことも、家を追放されたことも……知っているのはボネット家の人間だけだ。
――その言葉を聞いた瞬間、メリアは悲痛な顔をした。
「……そう、ですよね……。すみません、あまりにも似ていたので……」
「いえ……。そろそろ講堂に向かわないと入学式に遅れてしまいます。行きましょう」
「……はい」
――心の中で僕は、何度もメリアに謝りながら、講堂へ向かった。