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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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五十一話

「ただいま……」


 数日ぶりの自宅のドアを開け、そう呟く。

 外はすっかり暗くなっている。


「ふう……」


 部屋の電気をつけて室内に入ると、そのままベッドに倒れこむ。

 王城のベッドの方がふかふかなのだが、やはり少し固めのこのベッドの方が心地いい。


 うつぶせの体勢から仰向けになり、天井に向けて右手をかざす。

 そのまま右手に魔力をともす。

 特に意味などない。限りなく無意味な行為。

 だが、自身の右手に灯る白い魔力を見て、どこか安堵する。

 あの男の……闇の帝級精霊の契約者の黒い魔力を見て、恐れを抱いていたのだろうか。


「調べることが出来たな……」


 一人、呟く。

 調べることはもちろん、闇の帝級精霊について。

 存在すると言われながらも見た者がいない幻の精霊。

 だが、突如僕の前に姿を現し、その力の一端を見せつけられた。


「僕はどこか、慢心していたんだろうな」


 各属性に一体しか存在しない帝級精霊。

 その五属性全てと契約した。彼女たちを超える精霊など存在しない。

 彼女たちを契約している自分を超える者など存在しない。

 僕に勝ちうる者など、この世に存在しない。

 あの男たちを除いて……。


 ……無意識のうちに、そう思っていたのだろう。


 彼女たちと契約した後も、日々欠かすことなく鍛錬した。

 洗練された魔法を使えるように努力した。

 

 だが、それだけだ。

 

 血反吐を吐かなくなった。

 死にそうになるまで努力をしないようになった。

 ボロボロになるまで……その力を磨こうとはしなかった。


 ただやったのは、誰もが一様にしている努力。

 それを努力とは言わない。誰もがしていることをしたところで、そこに差は生まれない。


 確かに僕は誰よりも強い力を得た。

 だが、それを使いこなせてはいない。


 それが……今日のあの惨状。


 結果を見れば、負けはしなかった。

 けれど、確かに僕はあの男に敗北した。


 助けられただけなのだ。僕自身の力は、あの男よりも劣る。


 扱いきれず、ただその力を封じることでしか生きていけない今の僕は、きっとこの世の誰よりも弱い。



『――彼女たちの封印を解くきっかけ見つけるためよ!』



 精霊学校に入学する前、ラナさんが僕に向かって言った言葉が脳内で再生される。

 きっかけは得た。

 だが……



「――僕は、誰よりも弱い」


 眠気の中で薄れ行く意識の中そう呟き、僕の意識は闇へとおちた。






「……寝てしまったのか」


 ベッドの上で体を起こし、目を擦りながら現状を確認する。

 服についた皺を伸ばしながら立つ。

 時刻を確認する。幸いにも、学校に遅れることはない時間だった。


 昨日浴びることが出来なかったためシャワーを浴び、軽い朝食をとる。


 制服の袖に腕を通し、靴を履いて戸を開ける。

 そこから差し込んでくる陽の光がとても気持ちいい。

 こう思うと、王城は自分には合わないと……そう思う。


 フカフカのベッドも、朝起こしてくれる使用人も、朝食を作ってもらうことも、服を着せてもらうことも……すべてが僕には不必要で、不似合いなものだ。

 そう思いながら、メリアがいないことに寂しさを覚える。


「朝から、何を馬鹿なことを考えているんだ……僕は」


 頭を振り、学校に向けて歩き出す。

 魔法は使わない。のんびりと歩く。

 今の時間を噛みしめるようにして……。






「あ、フェイくん。おはよー」

「フェイ様、おはようございます」


 教室に入ると、メリアとアイリスが声をかけてきた。

 二人はすっかり仲が良くなったらしく、僕が入る直前も楽しそうに談笑していた。


「どうして学校休んでたの?」


 アイリスが僕に聞いてくる。


「いや、いろいろあったんだよ」

「ふーん」


 僕が誤魔化すように返すと、引き下がってくれた。

 心の中で胸を撫で下ろしながら、ある人物を探す。


「あれ?ゲイソンは?」

「さあ?遅刻じゃないのー?」

「誰が遅刻するか!このクソ女!」

「あら、いたの?」


 僕の背後には、こめかみの血管をぴくぴくさせるゲイソンがいた。


「よお、久しぶりだなフェイ」


 がるる……と、アイリスに威嚇しながら僕にあいさつをしてきた。


「おはよう、ゲイソン」


 この二人の関係性に苦笑しながら応える。


 半ば強制的に入学した精霊学校だが、存外に居心地がいいと思うようになっていた。

 自分の心象の変化に少し驚きながら、席に着いた。

 

 今は、学校生活を……ゲイソン達との生活を楽しもう。

 この時間ですら、何時かは失っていくものなのだから。

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