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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに

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四十八話

 荒れ狂う魔力の奔流。

 その元で、右手を天へと掲げながら黒装束の男が紡ぐ。



『――我は汝と契約せし者 汝の力すべての行使を認められ、委ねられし者』


『我は傲慢にして不遜 その力をもって、我に降りかかるあらゆる厄災を祓う者なり!』


『我は闇の執行者 与えられるは漆黒の剣』


『触れる者全ては闇へと転じ、あらゆる闇を統べる帝剣よ 今此処に、我はそれを求めん!!』



 男の手の先の空間が裂け、闇が溢れ出る。

 その闇が男の右腕を包み込み、徐々に形を成してくる。


「今のは……!」


 男が口にした詠唱。その一節が、彼女たちの力を使う時の詠唱と同じだった。


「ぐっ……」


 頭が爆発しそうなまでに痛み出す。朝の時の比ではない。

 今すぐここから逃げろ……僕にはこの頭痛が、警鐘に感じられた。


「【ダークソード】!!」


 そう名唱したと同時に、奴の右手に現れたのは漆黒の剣。

 黒曜石とは比にならないほどに黒く、その刀身には黒い靄が渦巻いている。

 それが体現するのは、まさしく闇。

 それを見ているだけで、闇に魅了され、堕ちていくだろう。


 だが、そんなことよりも……彼が持つその剣に、僕は見覚えがある。


「その剣は……」

「お前は見覚えがあるよな。何故ならこれは、同じ帝級精霊魔法なんだからな!」

「帝級精霊魔法!?」


 帝級精霊は各属性に一体しか存在しない。

 火、水、風、土、雷の帝級精霊を総称し、五帝獣という。

 が、光、闇の帝級精霊は存在すると言われているが、現在確認されていない。


「闇の帝級精霊は確認されていない」

「確認されていないだけで、存在すると言われている。そもそも、【闇の帝級精霊魔法 ダークソード】を行使し、帝剣を顕現できたことが、俺が闇の帝級精霊と契約していることの何よりの証だ!」

「……」


 帝級精霊魔法であるソードは、その名の通り帝剣をその場に顕現する魔法である。

 ただそれだけならば行使するメリットはあまりないのだが、その剣にはいくつかのギミックがある。

 まず一つは、その剣に触れるものは何かしらの影響を受ける。

 例えば、火属性の場合、帝剣に触れた者は契約者以外いかなるものも燃える。

 もう一つは、詠唱も、名唱もせずにその意思だけで様々な魔法を行使できる。


「それで、闇の帝級精霊の契約者様が僕に何の用ですか?」

「さっき言っただろ、お前の契約している水の帝級精霊の力を奪う為だ!」

「――っ!……僕が水の帝級精霊と契約しているとでも?何を言っているんですか」

「おっと、誤魔化そうとしても無駄だぜ。お前も帝級精霊の契約者なら、分かるだろ。ほかの帝級精霊がどこにいるのか」

「……?」


 男の言っている意味が分からない。


「……なるほどな。お前、帝級精霊を封印していたな?道理で昨日まで反応がなかったわけだ」

「何を言っているんですか」

「お前、昨日帝級精霊の力を使っただろ?感じるんだよ……同じ帝級精霊は各属性に一体しかいないが故に、その力がどこで、どの属性なのか……。だから俺はその力の断片をたどって、一日でここまで来たんだ。お前もさっきから感じてるだろ?」

「――っ」



 もしかしたら、頭痛のことなのか……と思ったが、この男のように属性や力までは感じなかった。


「力を使って少しは感じれるようになったみたいだが、封印しているんだろ?解放している俺よりも精度が落ちるのは当たり前だろ」

「……なるほど。あなたは危険ですね」

「あー、俺も話しすぎたな。俺と同じ神に近しい存在にあえて嬉しかったのかもしれねえな」

「神に近しい存在?」

「ああ、帝級精霊なんてものは、まさしく神。それと契約している俺たちは、人でありながら最も神に近い存在であるわけだ」

「それは、傲慢で不遜な考えですね」

「ふっ……だからこそ、帝級精霊と契約できるんだよ」


 この男に、自分は帝級精霊と契約していないなどという誤魔化しは無意味だ。

 ならば、僕がとるべき行動は一つ。


「帝級精霊は七体もいてはだめだ。それでは神ではない。俺はすべての帝級精霊を飲み込み、神になる!」

「それが、あなたの目的……」

「ああ、力を求めるのは当然だろ?」

「理解できなくもないですが……あなたはここで始末するべきかもしれないですね」

「お喋りはここまでだ。お前を殺した後、他の帝級精霊を喰らいに行く」


 帝級精霊が相手だというのならば、同じ帝級精霊の力をもってしなければ、とても太刀打ちできない。


 ごめんよ、また力を借りることになるよ。


 返事は無い。それでもいいのだ……。

 何故なら僕は帝級精霊の契約者。

 傲慢で、不遜なのだから。



『――我は汝と契約せし者 汝の力すべての行使を認められ、委ねられし者』


『我は傲慢にして不遜 その力をもって、我に降りかかるあらゆる厄災を祓う者なり!』


『我は水の執行者 与えられるは氷雪の剣』


『触れる者全ては氷へと転じ、あらゆる氷を統べる帝剣よ 今此処に、我はそれを求めん!!』



 同じように、僕の手の先の空間が裂け、氷が溢れ出る。

 その氷が僕の右腕を包み込む。


 そして、名唱する。


「【アイスソード】!」


 顕れるは氷雪の剣。

 彼と違うのは、この剣に靄がかかっていないことだろうか。


 僕がその剣を握ると、どちらも何も言うことなく、地を蹴った。



 黒帝剣と氷帝剣が、この場でぶつかりあった。

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