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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに

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四十七話

「では、殿下。今日のところはこれで……」


 あの後適当に王都を散策し、王家公認のレストランで昼食をとった。

 そのあと殿下が服を見たがっていたので、買い物をした。

 ラナさんのことで分かっていたのだが、女の子の買物は長い。まさか午後の全てを使い切るとは思わなかった。


「ええ……」


 俯き加減に返事され、その仕草にどこか引っかかる。

 いつの間にか、殿下にこんなことを聞いていた。


「今日は楽しんでいただけましたか?」

「もちろん、楽しかったわ」


 僕の問いに答えながら、遠慮がちに口を開く。


「フェイは……」

「え?」

「フェイは、今日楽しかった?」

「ええ、もちろんですよ」

「そ、そう……」


 僕が答えると、顔を王城の門へと向けながら、身を翻す。

 こそこそ王城を出入りする必要がないことはわかっているのでそのまま中へと入ると、中にいた近衛騎士が僕の持っている大量の荷物を手に取ってくれる。

 それに感謝の意を込めて軽く会釈し、殿下に、少し用があるので王城に戻るのはもう少し後にする旨を伝える。


 そのまま僕は門をくぐる王城の外へと出ていこうとすると、背中から声がかけられる。


「また……また、私をどこかに連れて行ってくれる?」

「……陛下の許可があるのならば」

「むー、フェイには私を連れ出すという気概がないの?」

「そんな気概、今日で使い果たしましたよ」


 もう、魔法を行使してこっそりと抜け出すのはこりごりである。

 そもそも、今日出かけることを陛下が認めてくれていたのなら、正直に話せばいつでも外に出かけれそうだと思う。


「では、少し遅れるとお伝えください」

「何だか釈然としないけど、分かったわ」


 一礼し、その場を後にする。






 僕がそのまま王城に入らなかったのは言うまでもなく、探知魔法、【系統外魔法 サーチサークル】を放つと不審な人物が引っかかったからである。

 そして、この怪しい対象が午前中に感じた悪寒の正体であると分かるのに、そう時間はかからなかった。

 魔力を分析したわけでも、同じ重圧を感じたわけでもない。

 だが、分かるのだ。


 僕がその人物に近付くと、それは僕から遠ざかるように走り出す。

 一見すれば今朝の一件と同じように僕から逃げているように思うが、追い続けていると僕が見逃さないぎりぎりの距離で逃げている。


――僕を、誘っている。


 素直に、そう感じた。

 むしろ、僕がそう感じるように仕向けているようにさえ感じる。


 とするならば、今朝感じた重圧も、わざと放たれたのだろう。

 僕個人を狙う者はボネット家以外に思いつかないが、この練度……そして、人気のあるところではじっとこらえる忍耐力は彼らの手先にしては高すぎると、その考えを一蹴する。


 それと同時に、警戒レベルが一気に上がる。

 僕を狙う理由が分からない。いや、僕に対してどのような用があるのか、もしかしたら何かしらの話があるのかもしれない。

 それでも、僕はなぜか奴と話し合うことはできないと本能で感じていた。

 朝の時とは程度が低いものの、また頭がズキズキと痛み出す。

 まるで、僕に危険を知らせているかのように。






 やがて、城壁の近くに着き、門兵が僕を見る。

 周囲にあの怪しげな者の影は見えない。が、こちらにしか逃げ道はない。


「【サーチサークル】」


 再び探知魔法を使い、捜索する。


「――っ!」


 そいつは、確かにいた。

 門の外で、恐らく僕を待っているのだろう……城壁から少し離れたところに立ち止っている。


 どうやって、城壁を突破した?


 この疑問が一番に頭に浮かぶのは、しょうがないだろう。

 ここは王都、アルマンド王国で最も堅固な要塞。

 城壁を出る際には、五名の門番が立っている正門を通る際に、軽く手続きをしてからでなくては出ることもできない。入る際もそれと同じである。


……が、僕は真っ先に正門を見たが、手続きをしている者はいなかった。

 つまり、奴は無断でこの王都内に出入りできるということである。



 手続きをして、城壁を出る。

 奴は少し離れた人気の少ない森の奥へと歩を進めていた。

 【系統外魔法 エンチャントボディ】を行使し、一気にその森へと走る。


 沈みかける夕日が、怪しく森を照らしていた。






 「いた……!」


 がさがさと木々をかき分けながら、奴のところへと向かう。

 不意に奴は足を止め、僕が視認したと同時に口角を上げ、左腕を天へと掲げる。

 そして、何かつぶやいたと思うと、膨大な魔力が僕を……いや、森全体を覆う。


 この小さな森全てが闇に覆われ、森の外が見えない。恐らく、それは外からも同じだろう。


 【エンチャントボディ】を解き、奴の近くで足を止め、ゆっくりと近づく。

 奴の姿を見る。

 全身を黒装束に身を包み、辛うじて見えるのは口元。

 その口元を大きく歪めながら、僕の方に体を向ける。


「何だ、俺に用か?」


 初めて聞く、男の声。

 低い声には歓喜の色が含まれている。そして、その質問の答えを分かったうえで聞いているのだ。


「いえ、不審な人物を発見したので、声をかけようかと思いまして」

「王都を散策してただけで不審者呼ばわりとは、世知辛い世の中だなあ」

「正門を通らずに無断で出入りしていたあなたを不審者と呼べないほうが、よほど世知辛い世の中ですよ」


 男の飄々とした物言いが気に食わず、つい語気を荒げながら返す。

 すると、くっくっく……と笑いながら、僕を見て嘲笑を交えながら言ってくる。


「あんな穴だらけな警備だから侵入を許すんだよ。俺が本気を出せばあんな国、一日で奪えるぜ」

「それは、無断侵入を認めるということですか?」

「認めるも何も、お前は最初からそう思ってるだろ」

「……」


 こうして会話しながらも、この男がどこの命を受けて、何を目的としてわざわざ僕に接触してきたのか……それを聞き出すために思考を巡らせる。


「あー、俺はどこの命令も受けてねえぜ。よく考えてみろよ、俺が誰かの下につくと思うか?」


 すると、僕の考えを見透かしたのか、自分を親指でさしながら自信に満ちた声で僕に言い放つ。

 確かに、まだ数分も話していないのに、理解できてしまう。

 彼が並々ならぬ実力を持ち、誰にも屈さず、従わないことが。


「さて、お前に接触した目的はただ一つ……」

「……」

「お前の、力を奪うためだ!!!」


 刹那、魔力が膨れ上がり僕を襲う。

 その魔力の量は、明らかに異常。

 森の木々が魔力で揺れ、中には折れる木々も出てくる。


「――さあ、寄こせよ。お前の氷をな!!」

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