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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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四十六話

 肉の串焼きを食べ終え、出店をぶらぶらと見て回りながら念のために【系統外魔法 サーチサークル】を放つと、気配を察知している出店の店主とは別に、近くの脇道から気配を完全に隠した五人の人影が引っかかる。

 警戒レベルが一瞬にして高まる。

 それから一定時間ごとに【サーチサークル】を放つと、こちらを見失わない程度の絶妙な距離で付いてきていることを確認した。


「フェイ、どうしたの?」


 僕の傍らで、肉の串焼きと同じく出店で買ったクレープをもきゅもきゅと食べていたレティス殿下が、僕を窺うように聞いてきた。


「何でもありませんよ。それよりレティ、頬にクリームがついていますよ」


……と、僕の左頬を手でつつきながら殿下に言う。

 このクレープ、中々気前がよくてリーズナブルな値段の割にはクリームがたっぷりと入っており、クレープ自体もそれなりに大きいため食べようとするとどうしてもクリームがついてしまうのである。


 拭くものを渡すと、あ、ありがとうと言って奪うかのような速度でとると、僕から顔をそらしながら拭きはじめる。

 そして、拭き終えるとまるで話題をそらすかのように切り出してきた。


「あ、あっちの方でも何かやっているようね!い、行きましょう!」

「……分かりました」


 そんなところを微笑ましく思いながら、今のところ楽しんでくれているみたいだな……と思う。

 そして、彼女に悟られないように尾行者を排除しようとも思った。






「レティ、ここで少し待っていてください」


 今、殿下と僕は広場の噴水に腰掛けながら休憩している。

 昼間であれば賑わうであろうこの広場も、まだこの時間は閑散としている。

 人々が本格的に活動を始めるのは、もうしばらくといったところだろう。


「……?フェイはどこに行くの?」

「いえ、少し出店で気になるものがあったので、見てこようかと……」

「それなら私も行くわよ?」

「す、直ぐに終わるのでお待ちください!」

「そ、そう……?」


 僕の声に気圧されたのか、困惑しながらも承諾した。


「では、少し行ってきます。絶対そこから動かないでくださいね!」

「え、ええ……」


 念のためもう一度【サーチサークル】を放ち、周囲にあの五人組以外に怪しい人影がいないかを探る。

 駆け足気味に五人組に気づいていないかのように装いながら距離を詰める。


 少しして、僕が近付いていることに気が付いたのか、慌てて距離を取ろうとしだした。

……が、逃がしはしない。


「【エンチャントボディ】!」


 五人組が人気の少ない路地裏に身を隠すように入っていったのを確認し、【系統外魔法 エンチャントボディ】を行使し、一気に距離を詰める。

 そして、彼らを視界にとらえる。


 顔は茶色の外套で全身を覆っていたため、よく見えない。

 勘違いの可能性もあるため、一応確認する。


「どうして僕たちを付けていたんですか?」


 この問いに対する答えは……逃走だった。

 黒……そう判断し魔法を行使する。幸いにもここは路地裏、人がいないことも確認済みである。


「逃がしはしない……【ソイルウォール】!」


 五人が逃げた先に【土の中級魔法 ソイルウォール】を行使し、土の壁によって逃げ道を塞ぐ。

 そして、抵抗されないためにすぐさまもう一つの魔法を放つ。


「【ソイルロープ】」


 拘束魔法……【土の中級魔法 ソイルロープ】。

 読んで字のごとく、彼らの周囲の土が縄状に変化し、拘束する。

 すると、片腕がまだ拘束されていない一人の男が剣を懐から取り出し、魔法を斬った……。


「……なるほど、道理で王城の警備が甘かったわけだ」


 そう言いながら拘束を解く。


「全く、味方ならそう言ってくださいよ」

「そういわないで下さいよ、フェイ様。国王陛下のご命令で絶対にばれるなと言われているんですから」


 そう、彼らは王女殿下を護衛するために尾行していた近衛騎士だった。

 彼が剣を振りぬいたときに、その剣に刻まれていたアルマンド王国の紋章が見えたために、近衛騎士だと分かったのだ。


「護衛をされるのでしたら、近くにいたほうがよいのでは?何なら僕たちと一緒に回りますか?」

「馬鹿言わないで下さいよ。姫様に殺されますよ」

「どうしてですか?」

「……フェイ様、本気で仰られているんですか?」

「……?」

「はあ……」


 目頭を抑えながらため息をつかれた。

 護衛をするなら近くにいたほうがいいと思うんだけどなあ……。


「ところで、王城の警備は大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。すでに警備体制はいつも通りなので」


 そう、どうやらわざと王城の警備を薄くし、僕たちを王城から抜け出せるようにしていたのだ。

 つまりは僕たちが王城を出ることは国王陛下の承諾を受けたも同然。


「分かりました。では、あなた方を敵と認識しないように魔力を付与させていただきますね」

「えっ、はい……分かりました」


 指に魔力を放出し、五人の体に付けていく。

 僕の指に触れられたところは白い光を出している。

 これで、【系統外魔法 サーチサークル】で彼らを敵と認識することはなくなったため、人ごみの中でも敵と味方を確実に見分けることができる。


「ほかにいませんよね?」


 ほかにも護衛がいた場合敵と認識してしまうので、念のために確認する。


「大丈夫です、私たちで全員です。それよりフェイ様、そろそろ戻らなくても大丈夫ですか?」

「……あ、で、では、僕は行きます!」


 急いでその場を離れ、殿下の下へ向かう。






「お待たせしました、レティ」

「遅かったわね。何も買っていないの?」

「ええ、思っていたのとは違ったので」

「そう……」


 他愛のないことを話しながら、再び歩き出す。

 それにしても、どうして陛下は僕たちが外に出ようとしていたことを知っていたのだろうか……などと思考をめぐらしていると、一つの建物が視界に入る。


「冒険者ギルド……ですか」

「何?興味あるの?」

「ええ、まあ……」


 冒険者ギルドとは、魔獣などを討伐するクエストを発行し、冒険者といわれる冒険者ギルドに所属する者たちに仕事として与える施設のことである。

 冒険者は命の危険を伴う代わりに、成功報酬としてそれなりの額の金銭が支払われる。

 また、そういった危険なクエスト以外にも例えば届け物や掃除などの比較的命の危険が少ないクエストも存在し、子供に労働の大変さを教えようとするしつけに熱心な親がそれらを受けさせることもよくあることである。


……と、生活費を手に入れるために冒険者ギルドに入り、クエストをこなそうと前から思っていたのだ。


「冒険者になろうと思っていたんですよ」

「無理よ」

「えっ……?」


 一言、本当に一言で一蹴された。


「ど、どうしてですか!」


 僕が言及すると、周りに聞こえないように耳元で囁いてきた。


「フェイは男爵位を得て、貴族になったのよ?国を、民を魔獣などから守る代わりに貴族は貴族たる特権を得る。その貴族が冒険者をして二重にお金を稼いで言いわけがないでしょ?」

「……なるほど、そうでしたか」


 がっくりと膝をつく。

 詰まる所、国を守る代わりに特権を得ている貴族が、冒険者として結果的に国を守るクエストを受けてお金を稼ぐのは良くない。国を守るのは貴族として当たり前の行為であるため、冒険者としてそれらで金を稼ぐのは筋違いである……ということである。


「はあ……」


 ため息をつきながら歩く。

 すると、殿下に背中をたたかれる。


「女の子の横でため息をついたらダメなのよ!ほら、今日は楽しみましょう」

「わ、分かりました……」


 そうだ、ここで落ち込んでいると殿下に失礼だ……と思い、気を取り直して次はどこに行こうかと思考をめぐらしていると……


「――っ!」


 不意に悪寒が走る。全身に鳥肌が立つ。


「はっ……ぐっ……」


 全身が鉛のように重くなり、まるで呼吸の仕方を忘れたかのように、息を吸えなくなる。

 それほど莫大な魔力は感じていない。……が、確かにそれを感じた。


――今、何かが来た。


「――っぅ……」


 僕に何かを知らせるかのように、急に頭が痛みだす。


「フェイ?フェイ!どうしたの!?」

「だ、大丈夫です……」


 幸いにも、すぐにそれらは治まった。


 何だったんだ、今のは……。


 自問自答せざるを得ない。感じたのは確かな重圧。

 それらはまさしく、彼女たちに匹敵するもの。


「君は……誰だ」


 空を見上げ、無意識のうちに呟く。

 その声には、長年の宿敵に向かって放つ言葉のような、そんな殺気が込められていた。






「……あれが、あれが氷か!!」


 フェイの上空、下からは見えないほどの高さに黒装束の男は浮いていた。


「お前を喰えば、俺は神にまた一歩近づく……フ、フフフ……フハハハハハ!!」


 両手を広げ、狂ったように笑い出す。そして、じゅるりと舌なめずりをすると、低い声で呟く。


「炎、氷、風、雷、地……まずは氷、お前からだ……!」


 獰猛な顔つきでフェイを見つめ、重圧を放つ。

 それはまるで、俺に気付けとでも言わんばかりに。

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