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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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四十二話

「ふむ……全員集まったようだな。それでは今からボネット家の処罰を言い渡す」


 王の間には決闘前と同じ面々が集まり、それを確認した陛下が懐から紙を取り出し、読み上げる。

 アレックスたちは体を固くし、緊張に頬を強張らせる。


「王命。アルマンド王国国王、アルフレド=アルマンドがボネット公爵家に命じる。一、所有財産の一部没収。一、領地の一部没収。尚、この領地はボネット領東部とする。一、半年間、王都からの監視付きとする。以上のことをつつがなく遂行すること」


 読み上げが終わり、安堵の空気がボネット家に流れる。

 思っていたよりも処罰が軽かったのだろう。


 そのまま、近くにいた大臣が書面をアレックスに渡し、アレックスはそれにサインし、ボネット家証印を押し、処理を進める。


 それが終わり、陛下が僕を見てくる。


「次に、フェイ=ディルクの処遇だが、先にも言った通りフェイ=ディルクとして扱う。そして、男爵位を与える」

「……はっ!」


 突然のことで困惑したが、アレックスに勝利したことで爵位を与える価値があると判断されたのだろうか。将来的なことを考えれば断る理由はないので受ける。


「そして領地だが、先ほどボネット家より没収した領地を与え、同じように没収した財産もそのまま与える」

「――っ!?」


 ボネット家の緩んでいた空気に緊張が走る。


 これは、傍から見ればボネット家が領地と財産を没収され、新しく爵位を得たディルク男爵家に領地と財産を与えただけに見える。

 だが、ボネット家にしてみれば、自分の財産と領地がそのまま僕に奪われたことになる。

 彼らにとって、これ以上に屈辱はないだろう。


 もしボネット家の爵位を下げれば、それを不満に思い反乱されるリスクも高くなるだろう。

 だが、この処置は反乱を起こすには軽すぎるもので、けれど一番屈辱てきなものでもある。


 そして、ボネット家東部の近くには、あの森がある。


 だからこそ、そこを指定したのか……と、陛下のさりげない配慮に感謝する。


「詳しいことは後ほど渡す書面を確認してもらう。ボネットの者は帰ってもよい。後日、地権書とその書面に書かれた額の金銭を持って、再び登城すること。フェイ男爵は少し残られよ」

「はっ!」


 男爵……と言われ、微かな違和感を覚えながら返事をする。

 アレックスたちは僕を睨みながら、王の間をあとにした。





「さて、儂からお願いがあるのだ」

「お願いですか?」


 アレックスたちが立ち去ったのを確認した陛下が、僕を見て微笑みながら切り出してきた。


「レティスに魔法を教えてやってほしいのだ」

「……は?」


 突然の申し出に困惑する。


「レティスに魔法を……」

「繰り返していただかなくても大丈夫です!」

「ふむ……引き受けてくれるか?」

「なぜ、私なんですか?宮廷術師の方々に教えてもらえばいいのでは……」


 そんなことを口にした瞬間、レティス殿下ににらまれ、語尾にいくにつれて声が小さくなってしまった。


「儂も、この年までに何度もそうするように言ったのだがな……フェイに教えてもらうって約束したの!の一点張りで断られての」

「約束……ですか?」


 そんな約束をしたかな?……と、記憶の奥底を探る。

 すると、レティス殿下が怒気を含んだ声で言ってきた。


「最後に王城に来た時、約束したじゃない!」

「最後……あっ!」


 そういえば、精霊契約の前に王城に来た時、そんなことを口にした記憶が……。


「引き受けてくれるかの?」

「……分かりました」


 約束を破るわけにはいかないので、引き受ける。

 レティス殿下に、ふん!と顔をそらされた。ご立腹のようである。


……しかし、五年も前の約束を覚えているなんてレティス殿下の記憶力はすごいな……


と、僕が約束を忘れていたのは過ぎ去った年月のせいだと言わんばかりに殿下の記憶力を心の中で称賛する。


「そうか、引き受けてくれるか!では、よろしく頼む。領地の視察と管理については正式な処理が終わり次第登城するように連絡する。レティス……」

「分かりました」


 すると、レティス殿下が僕に近づいてきて、行くわよ……とつぶやいて王の間の扉へと向かった。

 ついて来いということなのだろうと思った僕は、陛下に礼をした後、その背中を追った。






「失礼します……」


 殿下が、一つの部屋の扉の前で足を止めた。

 彼女が扉を開けた先には、一人のメイドがお茶を入れて待っていた。


 恐らくここは殿下の自室なのだろう……と、ピンクを主体とした装飾を成している室内を見て思った。


「セリーナ、こちらフェイ=ディルク男爵」

「初めまして、私、レティス王女の専属侍女を勤めております、セリーナ=ミドウェルと申します。以後お見知りおきを」


 柔らかな物腰で名乗ってきた彼女は、青い目にオレンジ色の髪を肩ぐらいで切っており、年齢的には二十代前半だろうか……ラナさん同じような雰囲気を感じさせる。

……いや、それは失礼というものだろう。

 彼女の態度からはラナさんのように人をからかって面白がるサディスト的な思想は感じられない。


「あ、フェイ=ディルクです。こちらこそよろしくお願いします」


 そして、促されるままにレティス殿下の向かいのソファーに腰掛ける。


「あの……」

「フェイあなた、忘れていたでしょう」


 ティーカップを手に取り、どこか冷たい声で僕の声にかぶせるように半眼で睨みつけてくる。


「その……」

「どうなの?」

「……忘れていました」


 彼女の気迫に近い何かに気圧され、素直にそう答える。


「女の子との約束を忘れた……そういうことになるわね?」

「……申し訳ありません」


 うな垂れながら、謝罪する。


「それじゃあ、明日王都を案内してね?」

「それはつまり……殿下と王都を歩き回るということですか?」

「そうよ。もう一つの約束もしたでしょ?それを使うのよ」

「約束?」

「魔法を教えてくれるっていう約束を破ったら、私のお願いを一つ聞いてくれるっていう約束よ」

「……そういえばそんな約束を……」

「ふふ、そういうことだから」


 無邪気な笑顔を見せられ、その美しさにしばし見惚れてしまう。


「いや、ですが……これから魔法を教えることになるのであながち約束を破ったとは……」

「い、い、わ、ね!!」

「わ……分かりました……」


 詰め寄られ、思わず承諾してしまう。目の錯覚だろうか……彼女の後ろに虎が見えた気がする。

 そういえば、昔ラナさんが言っていたな……。

 女には押しが強い女と泣き落としがうまい女……その二種類しかいない……と。


「あれ?でも殿下を王城から連れ出したら問題があるのでは?」

「そうね、フェイなら頑張ってくれると信じているわ」

「……護衛の方も一緒に来ますよね?」

「護衛?フェイがいるじゃない」

「なにかあったらどうするんですか!」

「フェイが守ってくれるでしょ?」


 質問をした瞬間に返されてしまい、言葉に詰まる。


「じゃあ、よろしくね?」

「はい……」


 結局、抵抗など無意味だったのだ。

 女の子と二人で出かけたことがないので、どうしようかと考えんがらしばらくの間殿下と談笑した。






「セリーナ。なに、その笑みは?」

「いーえ、何でもありませんよー」


 フェイが部屋から出ていき、不意に傍らに佇んでいるセリーナの顔に目をやると、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。


「明日……デートですか」

「……っ!」


 デート、その響きに顔が熱くなる。


「殿方と!二人きりで!デート!」

「……あー、もう!うるさい!!」

「ふふふー」


 人をからかうのが好きなメイド……セリーナは、からかう話題が出来たと言わんばかりに満足げな表情を浮かべる。


「それよりも、服よ!明日何を着ていけばいいの?」

「着ていく必要はないと思いますよー。殿方は大抵全裸がお好みですから」

「――っ!もう、セリーナのばか!」

「あららー」


 もう、頭が暴走しそうなくらいに熱く、火照ってくる。


 この後、二時間かけて明日着ていく服を選んだのは別のお話。

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