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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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三十八話

「いつの間にこんな設備を整えていたの?」


 七公家、ラナール=ディルセルクが友人に話しかけるかのように、アルマンド王国国王アルフレド=アルマンドに聞く。

 彼女のさす設備とは、決闘が行われる場のことで、天井、壁、床……その全面が特殊な素材でできており、魔法の衝撃に耐えられるのはもちろんのこと、それを見学するものの安全を考慮して、見学者席は完全に決闘場の外に設置されている。

 決闘場内の様子は内外に設置された魔術具を介して映像として映し出される。

 この魔術具は二つで一組となっており、一方の映像や音声をもう一方で映し出せる。無論、その逆も可能である。

 だが、この魔術具は一定以上離れると効果を発揮しないため、軍ではまだ実用段階ではない。

 これが実用可能になれば、王都にいながら国境付近の状況を知ることができ、開発が急がれている。


「ラナール卿、今この場では言葉遣いを正してほしいのだが……」

「いいじゃない。そんなことより質問に答える!」


 むすっとした顔で言い返すラナール。

 釈然としない顔をしながらも、これ以上言っても無駄かと思ったのか、少しため息をつく国王。


「つい最近だ。学園のほうにも近々導入予定だ」

「そう……」


 そして彼女は部屋の奥を見る。


「それにしても、多くない?」


 ラナールは視線の先にいる数十人の人影を見て、そう言う。

 彼女たちは宮廷術師。国内屈指の精霊術師と魔術師。

 全員が女性なのは偶然ではない。

 男は学園を卒業すると大体は軍隊に入る。もしくは騎士となるため、男が宮廷術師になるのは非常にまれである。

 男が宮廷術師になろうとしないのはさまざまな説があるが、命の危険が最も少ないというのがあるのだろう。


「彼女たちもこの決闘を見たいといったのだ。七公家の戦いなど、そうそう見れるものではないからな」

「ふーん。それにしてもこの部屋、人が多いわね」


 この部屋には、ラナール=ディルセルク、ブラム=ボネット、セシリア=ボネット、エリス=ボネット、アディ=ボネット、ギリアン=アルマンド、レティス=アルマンド、アルフレド=アルマンド。

 そして、大臣をはじめとする国の重鎮たちに宮廷術師……確かに多い。


「それだけこの決闘に興味を持つものが多いということだ」

「……まあ、見てもわからないと思うわよ」

「どういう意味だ?」

「さあね~」

「相変わらず、掴みどころがないな……」

「それが私の長所なのよ」

「短所でもあるがな」


 二人のやり取りに大臣は呆れたような……彼女を知らぬものは唖然とした表情を浮かべる。

 一国の王を、まるで友のように話す彼女に。






 学園よりも少し広い決闘場の床を、コツコツと足で踏み鳴らす。

 上を見上げても天井しかなく、この部屋には二人しかいない。

 僕と……目の前に立つ、アレックス=ボネット以外には……。


 事前にアルナ鉱石の使用を禁止するといわれているので、それによる奇襲の心配はない。

 燕尾服を脱ごうとしたのだが、この服は決闘でも使われているらしい。



 魔法は何のために得るのか。そう聞かれれば大抵の人は魔族と戦うためと答えるだろう。

 いや、もしくは彼……アレックスならば、今の七公家という地位を確固たるものにするためだと答えるかもしれない。


 だが、僕らならばこう答えるだろう、


 そう……すべては"この時"のために……と。




 精霊学校に行く前に、ラナさんにボネットの人に会ったらどうするか……そう聞かれてなんと答えたかを思い出す。

 何が無視をするだ……そんなこと、出来るはずがないのに。

 結局、自分が一番自分のことがわかっていない。いや、分かっているくせに分かろうとしないのかもしれない。

 ラナさんと過ごした生活が眩しすぎて、彼女が綺麗すぎるがために、僕の醜いところを知りたくないのだろう。


 そう、僕はそんな自分から逃げていた。いつも逃げてばかりだ。


 ならばこそ、今ここで逃げるわけにはいかない!



 アレックスを……元父を睨む。


 ごくっ……と、つばを飲み込む。


 彼もまた、僕のことを見ていた。



 あの日、精霊契約に失敗したときの眼。

 あの日、僕に家を出ていくように言った時の眼。


 だが今度こそは、僕は目をそらさない!



『では、用意してください』



 魔術具を介して声が室内に響く。

 魔力を使い果たしても構わない。

 僕のこの気持ちの高ぶりは、彼以外を見る余裕を与えない。

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