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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
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三十七話

 満面の笑みを浮かべながら僕に向かって手を振ってくる。

 周りのことなど意に介さずに……。

 例えボネット家や大臣たちがこめかみをヒクヒクとさせても……。


 このマイペースな感じ……間違いない、ラナさんだ。


「ラナさ……どうしてこんな所におられるのですか、ラナール卿」


 一瞬ラナさんと言いかけたが、公式の場であることも考慮して言葉遣いをただす。

 陛下がラナさんの事を卿付けで呼んだことから、ラナさんが何らかの地位についている事は分かった。

 正直、驚きを隠せないのだが、ラナさんだから……と考えれる自分が怖い。


「んっー、なんだいその言葉遣いは。いつものようにママーって呼んでもいいのよ!」

「呼んでませんし呼びません!」

「むうー、素直じゃないフェイ君には……お仕置きだ!!」


 膨れっ面をしたと思うと、扉から僕までの距離を一瞬で詰め……


「ぐふっ!ラナさん、苦しいですって!」


 僕に抱き付いてきた。


「何をしてるんですか!」

「んっー?フェイ君エネルギーの充電?」

「何ですかそのエネルギーは!こんな充電のされ方をしたら一瞬で枯れ果ててしまいますよ……僕が!」

「そんなこと言って……本当はうれしいんでしょ?」


 僕の頬をつんつんとつつきながら、いつものセリフを言ってくる。


「ラナさん、そろそろ離れてください!」


 ほら、レティス王女が怒ってるから!僕たちを睨んでるから!


 確かに、王の間でこんなふざけたやり取りをすれば、誰でも怒るに決まっている。


「ごほん……して、ラナール卿。どのような用で参った」

「息子の顔を久しぶりに見に来たのよ」

「息子?ラナール卿には息子がいたのか?」

「ええ、フェイっていう名前の、かわいい息子がね」


 僕の頭を撫でながら言ってくる。


「あ、実の息子ではないわよ。たまたま満身創痍だったフェイ君を見つけて一緒に暮らしてたの」


 陛下の困惑した表情を見て、慌てて付け加える。

 すると得心がいったのか、ひげをなでながら続ける。


「なるほど……確かにそなたの回復魔法をもってすれば、ある程度の怪我ならば治せるだろう」

「ふふ、すごいでしょ!」


 妖艶にほほ笑みながら自慢げに語る。

 それが嫌な感じがしないのは、彼女の人柄からなのだろうか。


「陛下、その無礼者は!?」


 今まで口を閉ざしていたアレックスが聞く。


「無礼者……か。わしに嘘をついていたおぬしの口からそのような言葉が出るとはな……。この者はラナール=ディルセルク……七公家の一角、ディルセルク家の当主だ」

「あ、あの回復魔法のディルセルク……」


 名前だけは知っていたのか、ディルセルクの名に驚くアレックス。

 すると、彼を見たラナさんが急に怒ったような表情をしてアレックスに詰め寄る。


「あなたがフェイ君にあんなけがを負わせるように命令したのね!……私が手を下すのもいいんだけど、それは筋違いだからしないけど……」


 睨みながら話す。

 ラナさんの言葉には間違いがある。

 けがを負わせるように命令したのではない。殺すように命令したんだ!


 ラナさんの一言でそれを今更ながらに再確認し、自然と拳に力がこもるのを感じる。


「それでラナール卿、事を知っているのならば話は早いのだが、これからボネット家に対して処罰を下さなければならん。その前に聞くとしよう。決闘したらどうか……とは、どういう意味だ」

「そのままの意味よ。フェイ君の実力が分かって丁度いいんじゃない?」

「それは、アレックス卿との決闘……と言う事で間違いないな」

「ええ。その方がいいでしょ?フェイ君」

「えっ、いや、それは……」


 急に話を振られしどろもどろになる。


「私はかまいません。私がフェイなど……落ちこぼれに劣らないことを証明するためには、やむを得ません」


 何がやむを得ない……だ。

 その顔で言われても、全然そう思ってる風には見えない。


「ふむ。もし仮にフェイがアレックス卿に勝ったとすれば、堂々と爵位を与える事が出来る……」


 思案顔でぼそっと呟く陛下。


「フェイ=ディルクとアレックス卿……一対一での決闘、それでよいか?」


 陛下が僕に向かって聞いてくる。

 その目からは、断ってもいい……という思いがひしひしと伝わってくる。


「いえ、私も構いません」


 むしろ、僕にとっては都合がいい。

 アルナ鉱石に威力を弱めて保存された魔法ではなく、奴の本物の魔法を蹂躙できるのだから……。


「では、少し準備をさせる。それまでは下がっておれ」

「「はっ!」」


 王の間を出る途中にラナさんに声をかけようとすると、後でね……と、ウィンクで返される。

 僕たちが王の間を出た後も、ラナさんは残ったままだった。

 事情を説明してもらうのは、後にしておこう。






「本当に、人と人との巡り合わせとでもいうのか……世界は狭い。のう、ラナール卿」

「私とフェイ君の場合、運命だったのよ」

「ふむ・……して、そなたが彼を保護したと?」

「そうなるわね」

「それで、なぜ黙っていたのだ」

「んー、フェイ君がボネット家の人間だって知らなかったのよー」

「少し無理があるのではないのか?」

「いいのよ!私にもいろいろ考えがあるのよ」


 半ば強引に話を終わらせる。


「それで、彼に勝算はあるのかな?」

「フェイ君が勝つかどうかってこと?……無理だと思うわ」

「何!?だというのに決闘をさせるのか!」


 予想外の返答に、声を荒げる。


「それを、フェイ君が望んだのよ。大丈夫、フェイ君には彼女たちがいるわ・・・・・」

「彼女?」


 レティスがその言葉に反応する。

 彼女のしかめっ面を見て全てを察したのか、ほほ笑むラナ。


「ふふ……王女がフェイ君に、ねえ。大丈夫よ、レティス王女が思ってるような関係のことを言ってるのではないわ」

「――っ!な、何も言ってません!」

「……でもまあ、彼女たちは獣のようにフェイ君を愛してるからなー……」


 ラナの呟きは、この場のだれの耳にも届くことは無かった。

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