表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
二章 妄執の果てに
42/199

三十四話

「……」


 小鳥のさえずりとともに目が覚める。

 あの後王城の一室に通され、泊まることになった。

 ベッドはふかふかなのだが、隣の温もりがないことに違和感を覚えた。


「……変な感じだな。メリアが隣で寝ていることが当たり前になっているなんて……」


 ベッドに寝転んだまま天井をぼーっと、見続ける。


「フェイ様、起きていましゅ……すか?」


 コンコン……と扉をたたく音ともに、噛みながら扉越しに僕に向かって声がかけられる。

 起きていると返事をすると、失礼します……の声とともに、メイド服を着たアンナさんが入ってきた。


「おはようございます、フェイ様」

「おはようございます、アンナさん」

「おひょくじはどうなさいますか?」


……『しょ』を『ひょ』と噛んでも、なんとか誤魔化せると判断したのか、何事もなかったように聞いてくる。

 何というか、慣れている。


「少し体を洗いたいんですが、大丈夫ですか?」

「は、はい!ではその後お食事と言う事でよろしいですか?」

「ええ」


 彼女と会話している間に体を起こし、ベッドから出る。

 そのまま彼女の案内のもと、浴場へと向かった。





「フェイ様、これからどうなさいますか?」


 朝食をとっていると、傍らに控えているトレントさんが聞いてくる。

 僕と話しながら、アンナさんのフォローもしていた。


 ちなみに謁見の時刻まで三時間以上の時間があり、その間何をするのかを聞いているのだろう。


「王城からでても構いませんか?」

「いえ、謁見までは城内にいていただいたほうが……」


 声を徐々に小さくしながら言ってくる。

 つまりは、王城を出てはいけないというわけではないが、なるべく城内にいてほしいと言う事なのだろう。


「……それでしたら、魔法を使っても問題ない場所はありますか?」

「魔法……ですか?」

「ええ」

「……では、朝食をおとりになられた後、ご案内いたします」


 僕と話しながらもアンナさんが食器を落としたときに、割れないように床に落ちる寸前で拾っているトレントさんに驚きを覚えた。






「こちらです」


 一般的な住居ならば、離れとでもいうのだろうか……だが、こと王城においてはその域を脱している。

 中庭をわたり、王室がある本館から離された大きな建物の中に入る。

 中にはおそらくは近衛騎士なのだろう……剣を振っている姿が凛々しく見える。


「トレントさん、どうしたんですか」

「いえ、訓練室を一室お借りできますか?」

「訓練室……ですか?」


 隊長格の騎士がトレントさんに話しかけてくる。

 彼はトレントさんに尊敬のまなざしを向けている。トレントさん、何者なんだろう。


「こちらの方が魔法の練習をされたいそうで……」

「……?――っ!フェイ様……ですか?」

「えっ?すいません、どちらさまでしょう」


 僕の事を知っているような口振りだが、僕は彼のことを覚えていない。


「ああ……知らないのも無理はありません。直接お話ししたことはありませんので。数年前、よく中庭で姫様に魔法を披露されていたのを我々はこの建物の窓からよく見ていただけですので」

「なるほど、そうでしたか」

「では、お借りしてもいいですか?」

「フェイ様、申し訳ないのですがもう一つの部屋は修理中でして……。ここでよろしいですか?」

「ええ、ありがとうございます」


 ということで、この部屋の一角を借りることにした。


 目をつぶり、魔力を練ることに集中する。


「ふっー!」


【系統外魔法 エンチャントボディ】を行使する。

 系統外魔法なら、無詠唱で行使できるようになった。もっとも、いましたように集中しなければできないので、戦闘中にはとてもだが無理だろう。


 アレックスと戦うことになった場合を想定して、どの魔法を使うのかを考える。

 もっとも、ブラムの時とは違い初級魔法では簡単に相殺されるだろう。

 そして、【系統外魔法 エレメンタルコントロール】も奴の精霊には効かないだろう。


……ちらりと、五人の少女と女性の姿が頭によぎる。


 馬鹿な事を考えるな……と、自分に対して憤りを覚える。

 彼女たちの力を使うのは僕で、彼女たちは僕のために力を貸してくれる。

 だが、彼女に鎖を巻いたのは僕だ。


「くそっー!」


 室内に魔力の風が吹き荒れる。


「【ファイヤーボール】!」


 炎の玉が天井を埋め尽くし、それを地面付近に移動させる。


「【ウォーターボール】!」


 それらに水の玉を当て、相殺する。

 これは、狙ったところに魔法を行使できるかの練習である。


「フェイ!」


 魔法を相殺し続けていると、不意に後ろから声がかけられた。

 振り返ると、レティス王女殿下がいた。


「殿下……どうしてここに?」

「えーと、たまたま……そう、たまたまよ!」

「そうですか?」

「魔法の練習?」

「ええ」

「ふーん」


 何かを訴えてくるような顔で僕を見てくる。


「どうしたんですか?」

「あれ、やってくれない?」

「あれ……?ああ、あれですか」


 昔よく見せていた魔法の事かと、すぐに考えに至る。


「御自分でなされないのですか?」

「えっ?」

「いえ、殿下も魔法を使い、同じことを為されたりはしないのかと。初級魔法ですし……」

「……」


 なぜか、凄く睨まれる。


「どうされましたか?」

「フェイの……ばか!」


 そう言われ、殿下は走って部屋を出ていった。


「えっ?……あれ?」


 何がどうなっているのか理解できず、しばらく呆然としていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ