表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
一章 戦慄の魔術師の帰還
4/199

三話

「ここが精霊学校か。大きいなぁ……」


 精霊学校は各国に一校ずつ存在する。

 それは、人類共同統一戦線条約第三条「各国は魔族に対抗するために、精霊術師……またはそれに類する人材を育成する機関を設立すること」とあるからである。


 しかし、精霊学校を運営するには、多くの金、人材、土地などが必要である。

 そのため、国家予算の少ない小国などから反発があるのではないかと思うかもしれないが、そんなことはない。

 むしろ、国家予算の半分以上を精霊学校の運営予算にあてたりする国や、精霊術師育成特別税などの税を作って、その金で運営している国もあるほどだ。

 それほど各国は、術師の育成に躍起になっている。


 その理由として、一つは、純粋に自国が魔族などに攻められたときの防衛手段が欲しいから。

 そしてこちらが最大の理由になるが、人類共同統一戦線条約第一条「魔族の撃滅げきめつをなした時は、この条約の効力……これを破棄する」とあるからだ。

 この内容をかいつまんで説明すると要は、魔族を滅ぼしたときは、各国の停戦状態をなくし、人間同士の戦争をよしとする……ということである。


 つまり魔族を滅ぼした後、各国に攻め入る戦力を確保しておくために、優秀な術師育成が、各国の共通の課題なのである。


 尚、現在でも水面下では国同士で同盟などの交渉が進んでいる。



 精霊学校の修学期間は、一年生から六年生までの六年間であり、十三歳になると入学資格が与えられる。

 卒業後は王宮付きになったり、軍隊に入ったりと、進路は様々だ。

 もっとも、精霊術師に比べれば魔術師に与えられる地位は低いが……。


 ちなみに、入学資格が与えられるとあるが、十三歳になるとだれもが精霊学校に入学できるわけではない。

 精霊術師は貴重な人材のため、精霊と契約しているだけでほぼ合格となる。

 しかし魔術師に関して言えば、倍率は恐ろしいほど高い。

一学年一クラス30人。


 つまり、一年で30人しか入学できない。

 毎年精霊学校を受けに来る魔術師は1000人超……。

 倍率は……えーと、まぁいいか……。

 別に計算できないわけじゃないですよ……。

……うん。





「それにしても、本当に広いな……。絶対に迷うよ、これ」


 大きな門をくぐると、そこには一本の大きな道がある。

 その奥に校舎のようなものが見えるので、とりあえず向かうことにする。

 道の両側には街路樹が植えつけられており、さくらなのかピンク色の花を咲かしている。


「きれいだな……」


 校舎に近づくにつれて人が増えていく。

 新しい制服を着て、新しい生活に対して様々な感情を顔に出している。


――もっとも、緊張しているのは平民の人たちのようで、貴族らしき人たちは毅然たる態度で佇んでいる。

 よく見ると、貴族の子たちには家族らしき人たちが一緒についている。



「――っ!」


 そんなほのぼのとした光景をしばらく眺めていると、知っている顔が目に飛び込んできた。


……ボネットの人たちだ。

父 アレックス=ボネット

母 アディ=ボネット

姉 セシリア=ボネット

妹 エリス=ボネット

弟 ブラム=ボネット


 さすがは名家のボネット家……。

 周囲の人たちは彼らを見ている。





ブラムside

「それじゃあ、私は生徒会の仕事があるから行ってくるわね」

「あぁ、そういや姉さんは副会長だったっけ?」

「そうよ、頼むから面倒事を起こさないでね」

「大丈夫だって」


 セシリア姉さんは、頭脳明晰、容姿端麗、おまけに三年生にしてこの学校の副会長を務めている。

 俺の自慢の姉だ。


「じゃあエリス、いくぞ!」

「う……うん」


 俺の双子の妹、エリスは内気な性格だ。

 だが、精霊術師としての腕は俺並みだ。

 まぁ、俺に勝てる奴なんていねえけどな。


「じゃあ、俺は先に母さんと講堂へ行ってくるからな」

「エリス、ブラム、気を付けてね」

「はいはい」

「うん、お母様、お父様……また後で」


 母さんと、父さんと別れる。



 この四人のほかにもう一人家族がいた。

 五年前の話だが、生きていれば、俺と同じ学年だろう。

 兄は、四月生まれ、俺たち兄妹は二卵性の双子で三月生まれ……。


 兄の魔法の腕は一級品……。

 いつも父さんや母さんたちに期待され、俺よりも愛情を注がれていた。

 俺はそれに嫉妬していた。

 だから兄が精霊契約に失敗したとき、心の底から喜んだ。


 そして、母さんと父さんが家から追い出そうと話しているとき俺は、こう……進言した……。





――五年前

「アレックス、大事な話って何?」


 ボネット家の屋敷の一室で、父さんと母さんが話していた。


「フェイについてだ……」

「フェイについて?」

「あぁ、家から追放しようと思う」

「……追放?」

「そうだ。以後ボネットを名乗ることは許さない。もちろん、屋敷も出て行ってもらう。精霊術師になれなかったものなど、この家には必要ない!」

「そうね、魔術師が本家にいると他家にばれたらボネットの家の名に傷がつくものね」


「追放」……という形で話が終わろうとしていた。

 しかし、そこで俺は……。


「母さん、父さん!」

「っ!どうした、ブラム?」

「追放するだけで……いいんですか?」

「……どういう意味だ」

「あいつがもし、この家を出た後に自分はボネット家の人間だといえば……分かりますよね?」

「あぁ、言いたいことはわかる。だが、どうしろと?」

「殺しましょう!」


 俺は今日までためていた言葉を吐き出した。


「「!!」」

「分家連中に殺しておくよう指示するのです」

「しかし……」

「何を迷っているんですか?生かしておけば後々……ボネット家に害が及ぶかもしれないんですよ?」

「だが、追放するとはいえ息子を殺せ!……などと言えるわけがない……」

「何を言っているんですか!家の存続と、元息子の命……どちらが大切かは明白でしょう!」

「そ……そうだな!」

「そうね!殺しておけば何も心配する必要がないものね」

「はい!」

「分かった、分家には俺から指示しておく」


 その後、分家連中から兄が死んだと聞いて、その日はうれしさのあまり眠れなかった。

 姉さんや妹には、森で魔獣に襲われて死んだ……と言っておいた。

二人は泣いた……。

 それが、俺にとっては腹立たしかった。


 だが、まだ許せた。

 なぜなら……これで、父の、母の、姉の、妹の、周囲の、期待も愛情も、兄が持っていたものすべてが俺のものになったのだから……。





フェイside

 ボネットの人たちを見て、鼓動こどうが高まる。


「落ち着け!無視すればいい……。あの人たちには死んだことになっているんだ……。もし顔を見られても、他人の空似でごまかせる!」


 自分に言い聞かせるように声に出す。

 そして、そのまま彼らを無視して、Eクラスの教室へ向かった。





――魔術師がこの学校でどのような扱いを受けているか、フェイはこの時まだ何も知らなかった……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ