閑話 ゲイソンの災難
俺は職員室に来るようにアーロン……先生に呼ばれ、向かっている道中、【エンチャントボディ】のテストの時のことを思い出していた。
ファミスは魔力を極限まで薄く放射し、魔力の少なさを補うことで合格していた。
アイリスも……合格していた。
その中でも圧巻だったのがフェイだ。
白い綺麗な魔力を全身にむらなく、均等に張り巡らし、文句なしで合格していた。
あの魔力量と純度でどうして精霊と契約できないのかが、クラスメートの間での謎になっている。
えっ、俺?
もちろん合格したぜ!
……あれから数日、ブラックって呼ばれ続けたがな、畜生!
アーロンもアーロンだぜ。俺が【エンチャントボディ】を使うと、「まあ、合格だな……一応」って、あいまいな感じで言ってくるんだぜ!
何だよ一応って!こちとら苦労してんだ!
フェイの魔力純度が日に日にうらやましく感じる。
「失礼します」
職員室に入る。
精霊術師の教師の目が気になるが、無視してアーロン……先生のところに向かう。
「……来たか」
睨みつけながら、低い声で言ってくる。
こええ、まじこええ。宿敵と邂逅したかのような目で生徒を見てくるよ、この教師!
「あのー、何の用でしょうかー、アーロン先生様」
出来るだけ丁寧な口調で、敵……先生の機嫌を損なわないように聞く。
「自分の胸に手を当てて考えてみろ」
「……優秀な生徒を呼び出し、何かご褒美的なものを?」
「なわけないだろ!」
こめかみに青筋を立てながら机をたたき、怒鳴ってくる。
「これを見ろ、これを!」
アーロンが、9点と書かれたテスト用紙を俺に見せてくる。
名前は、ゲイソン=ダウナーと書かれている。
「……10点満点ですか?」
「100点満点だ!!」
「嘘だ!」
「嘘じゃねえ!よく見ろ!」
怒鳴り声が職員室で応酬する。
いつの間にか、職員室にいたはずの先生方はおらず、この部屋にはアーロンと俺の二人きりとなっていた。
「お前、寝てても満点をとれるって言ってたよな!俺の授業なんか寝てても満点取れると!」
「……これには、理由があるんですよ」
意味ありげな表情で、重々しく口を開く。
「ほう……言ってみろ」
すると、それが功をなしたのか一応聞いてやる……といった顔で俺を見てくる。
「テストが……テストが難しかったんですよ!」
「当たり前だ!テストを簡単に作ってどうする!」
「えっー」
「何だその声!」
やれやれ、といったように首を振る。
「フェイに、お前の勉強を見るように頼んだんだがな……」
「それならやりましたよ、フェイと勉強」
「それで、どうしてこういう結果になった」
「いやー、勉強をすると睡魔が……」
てへ、といった顔をすると、ものすごい形相で睨まれる。
「そうか……やはりお前は俺が直接手を下すしかないようだな」
「えっ……」
急に何かを決意したような顔で俺を見てくる。
てか、手を下すってなんて物騒な言い方だよ!
「ここに、問題用紙がある」
そう言って取り出したのは、山積みにされている紙の束。
「ま、まさか……」
「さて、今からこれをやっていくか」
「くっ……先生、俺この後用事が!」
「何があるんだ?」
「か、彼女とデートが」
「はい、嘘だな。補習やるぞー」
即答!?
俺に彼女がいないと決めつけてやがる、この教師。
いや、いないけどよ……。
「いや、他にも用事が!」
「聞いてやる」
「家で、復習をしようかな……と」
「安心しろ、今すぐここでしてやる!」
「やめてーー!!」
職員室に、悲鳴が響いた。