三十話
「説明しろ、ブラム」
ボネット家の当主の書斎には、アレックス=ボネット、アディ=ボネット、セシリア=ボネット、エリス=ボネット、ブラム=ボネットの五人に加え、分家筆頭のアルマン=ボスウェルの計六名が集っていた。
「……フェイが、魔術師枠として生徒会補佐会に入ると聞いて堪えられなくなり、昨日のうちに決闘を申込み……負けました」
「魔術師に負けるなんて、フェイが何か小賢しい真似をしたんじゃないの!?」
信じられないことを聞かされ、アディが声を荒げる。
「フェイお兄様は、ズルなんてしていません……!」
エリスが反論の声を上げる……が、
「エリス!フェイはもはや死んだ人間……他人だ!間違ってもお兄様などと呼ぶな!!」
「――っ!」
アレックスに怒鳴りつけられ、肩を震わし俯く。
「それでブラム、お前はどこまで力を出した?」
「……その、全力は出していません。きちんと手加減をしたので、油断してしまったのが敗因かと……」
ブラムの弁明を、セシリアとエリスがシラーッとした目で見つめる。
「本当のことを言え」
「……嘘などついておりません!」
「……ところでブラム、この間渡したアルナ鉱石はどうした?」
「そ、それは……魔法の研究に使用しました」
「エリス……何があったのかを言え」
「えっ、その……ブラムお兄様はお父様の魔法が保存されたアルナ鉱石と精霊魔法を行使されましたが、フェイおに……フェイにすべて相殺され、ブラムお兄様がお負けになりました」
エリスが言い終わると、アレックスはセシリアに目で確認し、セシリアはうなずき肯定の意を示す。
「ブラム、どうして嘘をついたの?」
アディがなだめるように言う。
「……希少なアルナ鉱石を使ったのを知られたくはなかったので……」
ばつが悪そうに顔をそらす。
「ブラムお坊ちゃまの精霊魔法すら相殺するとは……」
アルマンが驚き、考え込む仕草を見せる。
「アレックス様、ここはフェイとの和解を考えてみてわ?」
「ふふふふ……はははははは……」
その提案を聞いて、笑い出すアレックス。
「あなた、どうしたの?」
「お前たちは、私がフェイごとき……魔術師ごときに負けるのでは?……そう危惧してるのだろう?」
「い、いえ……そのようなことは……」
図星だったのか、慌てて否定する。
「だとしたらそれは杞憂だ。アルナ鉱石に込めた魔法は全力ではない。それに加え、私にはまだ精霊魔法がある」
それをきいて、セシリアとエリスを除く全員が光を見たかのように顔を上げる。
「フェイは一度死んだ人間……虫けら同然だ。虫けらに我々ボネット家が屈することは許されない!!」
「あなた……そうね!ブラム、あなたはあとでみっちりしごくわよ!」
「は……はい」
顔色を悪くしていくブラム。
突如、ドアがたたかれる。
「入れ!」
「し、失礼します!」
慌てたように入ってくる執事。
その慌てぶりからただ事ではないことを察したのか、執事を見据える。
「どうした?」
「国王陛下から、勅命が……」
「何!?」
執事が持っているのは一通の封筒。そこにはまぎれもなくアルマンド王国国王のサインが刻まれていた。
「読め!」
「はっ!」
封筒から紙を取り出し、読み始める。
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勅命
七公家が一角、ボネット公爵家に、アルマンド王国国王 アルフレド=アルマンドの名のもとに命じる。
以下の者は、十日後の正午、アルマンド王国王城へ登城せよ。
アレックス=ボネット
アディ=ボネット
セシリア=ボネット
エリス=ボネット
ブラム=ボネット
アルマン=ボスウェル
尚、領内財政管理帳及び、ボネット家証印も持参せよ。
アルマンド王国 国王 アルフレド=アルマンド
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「どういうことだ!?」
登城や領内財政管理帳はともかく、ボネット家の証印を持ってくるように言うと言うことは、領地や財産関係で動きがあると言う事だ。
「……このタイミング、フェイか!!」
あの時、自らの手で殺しておけばよかった……そう悔やむアレックスだった。
「これを、僕にですか?」
「はい」
学園長に渡される勅命書の入った封筒。
それを開け、中から勅命書を取り出す。
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勅命
フェイ=ボネットにアルマンド王国国王 アルフレド=アルマンドの名のもとに命じる。
汝は、十日後の正午、アルマンド王国王城へ登城せよ。
アルマンド王国 国王 アルフレド=アルマンド
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「……来たのか」
勅命書を読み終えたフェイは、無意識のうちにそう呟いた。
その殺気のこもった声に、学園長がビクッと肩を震わしていた。
フェイの目には何も映らず、ただ冷たい目で勅命書を見ていた。