二十九話
「全員集まりましたね」
生徒会補佐会のメンバーが全員集まったのを確認した会長がそう言う。
ブラムから視線を感じ見返すと目を外され、目を外すと睨まれる。
なんというか、居心地が悪い。
ふと、もう一つの視線を感じてみると、ユニス先輩が僕を見ていた。
僕が見たのに気付くと首をネコのように傾げるしぐさを見せた。
……子猫のようで可愛いなと思ったのは、フェイだけの秘密だ。
「さて、では左から自己紹介をお願いします」
会長が僕たちの前に並んで立っている四人にそう促す。
「俺はアドニス=オーウェン、四年だ。こっちのちっちゃいのがベイル=オーガス、こいつは三年だ」
「ちょっと先輩、僕の分まで言わないで下さい。あと、ちっちゃい言うな!」
アドニス先輩は黒髪のボサボサだが、ニカッとした笑みがかっこよく見える。
その右側、アドニス先輩に髪をくしゃくしゃにされながら釈然としない顔でいるベイル先輩。確かに童顔で幼い感じがする。
「私は、アネリ=ロルトなのですー。私は三年ですー」
アネリ先輩は水色の長い髪で、その……あの……胸が、大きい。
「じろじろ見るな!」
「ふんぎゃ――っ!」
セリア先輩に足を踏まれるグラエム先輩。
……痛そう。
「私はグレン=マーソン、五年だ」
七公家の一角を担うマーソン家の一人息子、グレン=マーソン。
昔何度か会話したことがあるけど、そのころと全く変わらずきっぱりとした七三分けの黒髪に黒縁メガネ、真面目な感じもして、本当に変わっていない。
「では、皆さんもお願いしますね」
……と、僕たちも同じように自己紹介をする。
ブラムやエリス、ユニス先輩たちは歓迎されたが、僕たち魔術師枠になると手のひらを返したような雰囲気になった。
まあ、アネリ先輩はどちらも同じようにのほほーんとした雰囲気を纏っていたけど。
「そんな風に下に見ていると、足元をすくわれますよ」
その雰囲気を感じ取った会長が言う。
「どういうことですか、会長」
グレン先輩がきちんとした言葉遣いで聞く。
「実は先日、ブラム君とフェイ君が決闘をしたのですが、フェイ君が圧勝したのですよ」
「「「なっ――!」」」
昨日の一件を知らない生徒会の先輩とブラムが同じような声を上げる。
そして、先輩たちに疑惑の目を向けられたブラムは屈辱に顔をゆがめながら俯く。
「すごいのですー」
……アネリ先輩はのほほーんとした雰囲気を、変わらず纏っている。
「何者なんだ?」
アドニス先輩が僕を物色するように見てくる。
「まあ、いいでしょう。学園長にも許可はとっていますし……。今から言う事は口外禁止ですよ」
「分かりました」
「わ、分かりました!」
「うーん、まあ、分かりました……たぶん」
「分かりましたー」
全員がそう言ったのを確認して会長が口を開く。
約一名、不安な方がいたが。
「彼の旧姓はボネット……フェイ=ボネットです」
一瞬静まり返り、そして驚きの混じった声が響く。
「ど、どういうことだよ!」
「死んだのでは?」
アドニス先輩とベイル先輩が同じような声を上げる。
が、ユニス先輩とグレン先輩は驚かない。
「びっくりですー」
……アネリ先輩はのほほーんとした雰囲気を……。
「詳しいことを説明すると七公家が関わってくるので言えませんが、彼が魔術師だからといって下に見ていると危ないですよ」
「わ……分かりました」
悪戯っぽい笑みを浮かべた会長にそう言われ、全員はそう答えるしかなかった。
彼らの動揺が隠せない中、フェイはこんなことを思っていた。
……秘密は、こうして秘密ではなくなっていくのに……と。
顔合わせが終わり、詳しいことは明日といわれ部屋を出ていく先輩たち。
ブラムも僕を睨んだ後出ていったので僕も出ていこうとすると、ドアから学園長が入ってきた。
「フェイ=ディルク君、君に話があるので少し待ってください」
学園長がそう言いながら、僕に一通の封筒を見せて来た。
そこには、アルマンド王国の勅命が同封されていることを示す、アルマンド王国国王のサインが刻まれていた。




