閑話 エリスの想い 後編
ブラムお兄様が行使した魔法が着弾したことによって生じた轟音で、意識を取り戻した。
私の目の前では、おそらくフェイお兄様にしか出せないであろう純度の……白い魔力で身を包んでいるフェイお兄様が立っている。
今しがた、頭の中で再生されていた数年前のお兄様と先日のお兄様、私のあこがれているフェイお兄様はやはり変わっていない。
当然のことながら、私に対する態度は変わっているけど……。
絶対にフェイお兄様が勝つ……そう確信していた矢先、ブラムお兄様が使えないはずの上級魔法、【火の上級魔法 フレイムウェーブ】が行使された。
「【ウォーターウェーブ】!」
それを見たフェイお兄様が【水の上級魔法 ウォーターウェーブ】を行使し、相殺する。
「何なのあいつ、上級魔法が使えるの!?」
アイリスという名前の女子生徒が言う。
「でもフェイも負けてねえぜ!同じ上級魔法で焦ることなく相殺してるしよ!」
ゲイソンという男子生徒が言う。
それは違う……と、それを聞いて私は思った。
フェイお兄様なら魔力の動きで行使する魔法を予測し、発動されたと同時に相殺できる魔法を行使する。
でも、今は少し間があった。
ほんのわずかな時間差だけど、私にはわかる。
「ブラム君は上級魔法をつかえたのですか?」
生徒会長がセシリアお姉さまに聞く。
その質問をされなくても声に出ていたと思わせるほど、信じられないといった感じの声音でセシリアお姉さまが漏らすように答える。
「いえ……ブラムが使えるはずありません!第一、中級魔法の練りも甘いですし……」
この会話の間にも、ブラムお兄様が上級魔法を行使し続ける。
それと同時に【火の中級精霊魔法 フレイムアロー】も行使される。
だけど、フェイお兄様は【水の中級魔法 ウォーターウォール】で相殺しきる。
それを見ながら、ブラムお兄様が行った魔法の同時発動に驚く。
「何なのあいつ!あんなカレーライスにミートソースをかけたような奴が、あんなことできるわけないじゃない!」
アイリスさんがそう叫ぶ。
たとえは、よく分からないけど……。
場は、さらに動く。
フェイお兄様を前後で挟み込むように【水の上級魔法 ウォーターウェーブ】と【火の下級精霊魔法 フレイムニードル】が放たれる。
「よけろ、フェイ!!」
半ば悲鳴のように叫ばれる。
フェイお兄様はそれを横目に右手を前方に、左手を後方に向け、
「【ウォーターウェーブ】【ウィンドストリーム】」
二つの上級魔法を同時に行使し、相殺する。
それを見て、私は軽く身震いした。
「おいおい、上級魔法の同時発動って……ありえねえだろ」
「フェイ君って何者!?」
二人が驚きの声を上げる中、メリアさんは落ち着いていた。
「メリアは何でそこまで落ち着いてるの?」
アイリスさんが聞く。
「え……その、フェイ様が負けるはずがありませんから」
突然声をかけられたことに驚いただけで、すぐにそう答えた。
単純な、でもそう答えられることを羨ましく思いながら、いまだ戦い続けている二人に目を向ける。
二人は魔法の行使をやめ、話していた。
そしてフェイお兄様がブラムお兄様をにらみつけながら言った。
「――――――――それは、アルナ鉱石だね?」
――――――――え?
自分の耳を疑った。
アルナ鉱石が何か、私は知っている。だからこそ、その希少さと価格の高さも知っている。
間違ってもこんなところで使われる代物ではない。
フェイお兄様の問いかけに肯定の意を示すブラムお兄様。
アルナ鉱石を使ってはいけないとは決めていない、そう叫んだブラムお兄様に生徒会長は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
アルナ鉱石を買うお金はどこから……?
そんな疑問を抱き、セシリアお姉さまを見る。
すると、私も知らない……といった感じに頭を横に振っていた。
アルナ鉱石に魔法を保存したのがお父様だと、なぜか自慢げに語る。
「――――っ!」
それを聞いたフェイお兄様が、身にまとう空気を一転させ、語りながらこの部屋の天井を覆い隠すほどの火の玉を出現させた。
その火の玉一つ一つに込められている魔力の量とその純度……それらを感じ、フェイお兄様を除くこの場にいる者全員が戦慄する。
ブラムお兄様の行使した【水の上級魔法 ウォーターウェーブ】も、それらによって相殺される。
それを見て、今度はアルナ鉱石を二つ取り出し、火の波を二つ、フェイお兄様を挟み込むように放たれ、さらには【火の中級精霊魔法 フレイムアロー】までも放たれる。
それを見たフェイお兄様は、ただ一つ……【風の上級魔法 ウィンドストリーム】を行使した。
それは、火の波と矢など眼中にないかのようにのみこみ、フェイお兄様が憎しみのこもった声で叫べば叫ぶほど、それに呼応するかのように魔力が流れ続ける。
その威力に、私たちを守る結界が音を立て始める。
――――――――――ドゴオオン
とてつもない爆音の果てには、空を見上げて立つフェイお兄様と、空が見える大きな穴が開いていた。