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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
一章 戦慄の魔術師の帰還
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二十六話

 数十……いや、数百近い火の玉が空中に浮遊する。

 だが、この表現は適切ではない。

 一つ一つに込められる魔力の量とその純度……これはもはや火の玉ではなく炎の玉だろう。


「ありえない!いくら初級魔法だとはいえこれほどの数を一瞬で展開するなど!」


 それを見て戦慄を覚えながら、何かを振り払うような仕草をしながらブラムがいう。

 それを冷ややかな目で、しかし、しっかりと見据えながら先ほどまでとは一風異なる雰囲気を身にまとうフェイ。


「……今なら、降参してもいいんだよ」

「――――っ!誰がおまえなんかにするか!」


 やけになったのか、こぶしより一回りほど小さい透明の鉱石……アルナ鉱石をフェイに見せつけると、そのまま魔力を流し込みひびが入ったと思うと、中から凝縮された水の波……【水の上級魔法 ウォーターウェーブ】が顕れ、徐々に大きくなりフェイに向かってくる。



……わざわざ自分から攻撃するタイミングを教えるのか……と、内心呆れながら空中に待機させておいた炎の玉を波にぶつける。


「【ファイヤーボール】」


 炎の玉が水の波に当たると、その箇所の水が蒸発、同時に炎の玉も消滅していく。

 半数ほどぶつけたところで水の波が消える。


「ばかな、たかが初級魔法で上級魔法を、しかも父さんの魔法を相殺するなんて!」


 その結果に、さして喜ぶそぶりも見せず、逆に悔しそうな表情を浮かべるフェイ。



……こんなに【ファイヤーボール】を消費するなんて。

 それに、相殺されては意味がない。

 もっと、もっと圧倒的な勝利を!



 そんなことを考えていると、ブラムが今度は二つアルナ鉱石を取り出し、魔力を注ぎ始める。

 両側にフェイを挟み込むように火の波が押し迫り、さらには後方からも【火の中級精霊魔法 フレイムアロー】が放たれる。



 考え事をしていて、はたから見れば呆然としているように見えるフェイのその様子を見て、ブラムはフェイがあきらめたのか……と思い、口角を上げながら、このまま焼け死ね!!と思う。



「……そうか、抑え込めば……」


 フェイが何かつぶやいたかと思うと、上空に浮遊していた炎の玉は霧散し、魔力へと戻りフェイに流れ込む。


「【ウィンドストリーム】!」


【風の上級魔法 ウィンドストリーム】

 だがそれは、先ほどとは違い、目に見えると錯覚してしまうほどに吹き荒れる嵐となって放たれる。


 それは火の波と火の矢を覆い、吹き飛ばそうとする。

……が、吹き荒れる風の中でそれらはまだフェイに向かおうと炎を宿し続ける。


「もっと……もっとだ!喰らいつくせ!支配しつくせ!そんな魔法、魔力ごと押しつぶせ!」


 怒気を含んだ声で、まるで呪いのように呪詛に満ちた言葉を叫ぶ。

 そのフェイの気持ちを体現するかのように魔力が流れ続け、さらなる嵐を生む。


 それを受け、フレイムウルフは嵐に飲み込まれ、実体化が解かれる。

 それに呼応するかのように火の矢も消える。


「もっと!もっと!もっと!もっと!もっとだ!!」


 精霊魔法は精霊が行使するため、精霊の実体化がとけたために精霊魔法も消えたが、火の波は消えない。

 だが、徐々にそれは範囲を狭め、圧縮されていく。



 ブラムはフレイムウルフが消える前に吹き飛ばされ、壁に体を打ち付けあえなく悶絶。

 さらには実技室の壁がビシビシと音を立てているが、それらはフェイの耳には届かない。


 フェイはただ、目の前の忌々しい火の波を蹂躙することだけを考える。


「消え失せろ!!」




――――――――ドゴオオン


 とてつもない爆音を立てながら火の波は完全に消え、霧散する。

 相殺されることなく行き場を失った【ウィンドストリーム】は壁に激突する。


「……やった……」


 小さく、だが確かに呟かれた一言。

 その一言にはさまざまな気持ちが込められている。


 今彼の頭には、ブラムのことなど思考の片隅にもなかった。




【ウィンドストリーム】があたり、しばらく立ちこもっていた粉じんが晴れていく。

 その先には大きな穴がぽっかりと空き、よく晴れた青い空が見えた。


「……今日の空はきれいだなあ」


 半ば現実逃避気味に呟きながらも、その顔は今日の空と同じような晴れやかな表情が浮かんでいた。

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