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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
一章 戦慄の魔術師の帰還
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二十五話

――――――――アルナ鉱石。

 八年前、アルナ帝国で発見された鉱石。

 アルナ帝国は、もとはアルナ公国という名の鉱業が盛んなことだけが取り柄の小さな国だった。

 だが八年前に国内のとある鉱山にて、土魔法を使用して鉱物を採掘中、放った魔法が吸収され、削り取ることのできない鉱石が発見される。

 それがアルナ鉱石である。


 アルナ公国はただちにその鉱石の研究を開始、一年後には魔法を鉱石内に保存し、その後少しの魔力を流すことで保存した魔法を放つことができるということを発見するに至る。


 それからというものアルナ公国は他国にアルナ鉱石を売り、それに伴う莫大な収益により国力を増大、数年ほど前から近くの貧しい国々を吸収、合併を繰り返し、二年前に国名をアルナ帝国に改める。



 魔力が少しあればだれでも上級魔法を使うことができる……そんなアルナ鉱石だが、誰でも手軽に入手し、使えるわけではない。

 そんなことになれば、努力せずとも魔力があるだけで上位の術師になれる。



 アルナ鉱石が多く使われるようにならないのには、大きく二つの理由がある。


 一つは、単純に採掘量が少ないことだ。

 現在確認されているアルナ鉱石が取れる地域は、アルナ帝国内とその周辺国のごくわずかな地域。

 少量しか取れず、なおかつ使い捨てになるため供給が不足し、アルナ鉱石一つ一つの価値が高くなる。そのため、必然的に価格も上がる。

 それこそ、アルナ鉱石を一つ買うのにかかるお金で、一般的な暮らしなら四人家族で十年は暮らせるほどに。


 そしてもう一つ、こちらが主な理由だが、アルナ鉱石に魔法を保存するのがとても難しいということだ。

 鉱石に魔法を保存するには、魔法を発動……例えるなら、【火の初級魔法 ファイヤーボール】を行使する際、魔力を火の玉にかえ空中に放出し、待機状態にする。

 それを凝縮し魔法を魔力に戻さないよう、しかし魔法のままになりすぎないよう慎重に鉱石に流し込む必要がある。

 この時、魔力に戻しすぎるとただの魔力が入っただけの鉱石になり、魔法のままになりすぎると、鉱石に直接魔法をぶつけただけになり、魔法に耐えられず鉱石が砕ける。

 もっとも、初級魔法までならそのまま流し込んでも砕けることはほとんどないが、貴重で高価なアルナ鉱石をたかが初級魔法を保存するためだけに使う人はほとんどいない。



 以上の理由により、アルナ鉱石は主に各国の王族、またはそれに連なる身分の者を警護する・・・・・いわば近衛騎士などに万が一の時のために支給されたりしているくらいであって、それ以外のものが入手するにはお金が足りず、入手しても魔法を保存できるだけの技量を持つ上位の術師がいない。





「――――――――それは、アルナ鉱石だね?」


 ブラムを静かに、だが怒りのこもった眼で睨みつけるフェイ。

 その言葉を聞いて一瞬顔をしかめたが、すぐに飄々とした顔で言う。


「今更気づいたのか。気づくのが遅すぎなんだよ!」

「これは決闘のはずだけど……」

「だからどうした!アルナ鉱石を使ってはいけないなんて決めてないだろ!」


 レイラを見ると、苦虫を噛み潰したような顔で頷いていた。

 普通は、貴重で高価なアルナ鉱石がこんなところで使われるとは考えないだろうから、フェイ自身もレイラを責めるつもりはなかった。


「決闘は自分の力で戦うものじゃないの?」

「力?俺はお前と違ってたくさんの力を持っているんだよ!権力、財力、知力、能力、実力……つまり、俺の財力で買ったアルナ鉱石も俺の力なんだよ!!」


 無茶苦茶な……と思う一方で、そういう考え方もあるのか……と、フェイは思う。


「それにしても、それほどのお金を一体どこから捻出してるの?」


 答えは大体見当はついているが、念のため聞く。


「捻出……ねえ。言葉の使い方が間違ってるぜ!これを手に入れるのに苦労なんかしてねえからな!」

「……」

「これは領内で得た税金で買ってるんだよ!」


 やっぱりか、フェイは内心であきれ果てる。

 すでに数個使用されていることから考え、まだブラムは数個……もしくは数十個ほど持っているはずだ。

 そして、それほどの数をこんなところで使えるということは、実際には数十個をはるかに超える数のアルナ鉱石をボネット家は所持しているはずだ。

 それらをすべて税金で賄うには、アルマンド王国が目安としている税率では到底足りない。


「……最後に一つ、聞いてもいいかな?」

「何だ、一体」

「その鉱石に魔法を保存したのは……」

「ああ、父さんだよ」

「そうか……」


 そういって俯くフェイ。

 それを見て、フェイが諦めたのか、と思ったブラムが勝ち誇ったように言う。


「土下座して、参りました……っていうなら終わってやってもいいぜ!」


 口元を大きく歪めてそういったブラムを見て、レイラたちが寒気がしたのか、軽く体を震わした。



「………………なぜ、わざわざ降参なんかするんだい?」

「んっ!?」

「だって、もったいないでしょ?」

「何を言っている?」

「心の中では踏ん切りをつけたはずなのに、でもその奥底には、忘れようとした……忘れたはずの恨みが募っている……」

「だから何が言いたいんだ、お前は!」


 訳の分からないことをいうフェイに、苛立たしげな表情を見せる。



「本当にもったいないでしょ?僕を捨てた……殺そうとした親の魔法を完膚なきまでに叩き潰し、蹂躙する機会を自分から捨てるのは――――――――!!」



 フェイの体から膨大な魔力が放出され、けして狭くないこの部屋の天井を覆い隠すほどの火の玉が出現する。





――――「早くしなよ。君の力をすべて僕に見せてよ!」

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