二十四話
「【ウォーターウェーブ】!」
ブラムが何の予兆……詠唱すらない、突然放たれた【火の上級魔法 フレイムウェーブ】に驚きながらも、フェイは同じ上級魔法、そして火属性との相性がいい【水の上級魔法 ウォーターウェーブ】をとっさに行使し、相殺しようとする。
だが、すぐに相殺することはできなかった。
火と水の波がぶつかり合ったところで、雲ができるのではないかと思うほどの水蒸気が発生する。
しばらく拮抗したのち火の波が消え、ほぼ同時に水の波も消える。
それに驚きながらフェイは【系統外魔法 エンチャントボディ】にて強化した膂力を使い、ブラムから距離をとるように後方へ大きく跳ぶ。
「どうした?逃げるのか?」
それを見て、自分が圧倒していると思ったのか、ブラムが高笑いしながら言った。
「おいおい、こんなもんじゃねえよなあ!」
そして再び、【火の上級魔法 フレイムウェーブ】が出現し、フェイに襲い掛かる。
まただ……フェイは心の中でそう思った。
確かにフェイは、ブラムが上級魔法を使ったことに驚いた。
だが、それだけならば自分も上級魔法を使い相殺すればいい……今、したように。
問題は、ブラムの上級魔法にはそれを行使する予兆がほとんどないことである。
本来魔法を行使する際には、詠唱・魔力の動きといった行使するまでに時間差や予兆が生じる。
フェイはその魔力の動きを感じ、それが何の魔法なのかを正確に予測し、対応することができる。
だがブラムからは、それこそ初級魔法を行使する程度の魔力しか感じられず、詠唱もされていない。とても上級魔法を行使できるとは思えない。
そしてなにより魔力の純度が高く、フェイの上級魔法と拮抗しあえるほどの魔法を行使してきた。
この魔法の練度はブラムの実力をはるかに凌駕している。
「【ウォーターウェーブ】!」
先ほどと同じようにして相殺する。
「くっ――――!」
上級魔法同士の衝突によって生じた水蒸気、それを断ち切るようにしながら炎の矢……【火の中級精霊魔法 フレイムアロー】が数本、フェイに向かってくる。
「【ウォーターウォール】!」
だが、水蒸気の先でのブラムの魔力の動きと、詠唱によってそれが来ることを予測していたフェイは、【水の中級魔法 ウォーターウォール】を行使し、相殺する。
霧が晴れた向こうには、先日と同じく燃え上がる炎を身にまとった狼、中級精霊フレイムウルフが顕現していた。
フレイムウルフの傍らに佇んでいるブラムを見て、さらに違和感が募る。
初級魔法に、上級魔法を二発に加え、精霊魔法を行使したのに、ブラムには全く疲れが見えない。
その様子を見て、まさか……と思いながらフェイは耳に魔力を集中させ、聴力を強化する。
――――――――――――パリンッ
何かが砕ける音がすると同時に、火の波が出現する。
それを相殺しようと前方に【ウォーターウェーブ】を行使しようとすると、不意に後ろから魔力の動きを感じ振り返ると、そこにはフレイムウルフがこちらを威嚇するように体毛……もとい、火の毛を逆立てながら、ブラムの詠唱と同時に【火の下級精霊魔法 フレイムニードル】を放ってきた。
「しねええ!!」
魔法をフェイに放つたびにそういうブラムの声を引き金に、前方からは火の波、後方からは火の針がフェイに襲い掛かる。
それをフェイは横目で見ながら、まだ【系統外魔法 エレメンタルコントロール】を使うのは早いかな……と、考えていた。
そして、フェイは右手を前方に、左手を後方に向けると――――――
「【ウォーターウェーブ】【ウィンドストリーム】」
前方には【水の上級魔法 ウォーターウェーブ】を放ち相殺し、後方には【風の上級魔法 ウィンドストリーム】を行使すると、火の針は空中で動きを止め、フェイが膨大な、そして凝縮された魔力を上乗せすると、目に見えず、それでいてそこにある空気が火の針を包み込み、そのままブラムに向けて放たれる。
「なっ、ばかな――――!」
精霊魔法が直撃するかどうかの寸前で、再びパリンッ、とした音が聞こえると、水の波がブラムを守るかのように出現する。
だがすべては相殺しきれず、ブラムに数発直撃する。
「ばかな!魔法を同時に、それも上級魔法を!」
ふらふらと立ち上がりながら、信じられないといった顔でフェイに向かって叫ぶ。
「何を?ブラムだって似たようなことをしているでしょ?上級魔法に中級精霊魔法の同時発動……」
「そ、それは……」
「わかってるよ。今のブラムの魔力、言動、何かが砕けるような音で確信した。
――――――――それは、アルナ鉱石だね?」
ブラムを、怒りで満ちた瞳で睨みつけながらフェイは言った。