二十二話
ブラムが生徒会室に入ってきた瞬間、一気に室内が騒がしくなる。
「あの、もしかしてお兄様も補佐会に入られるのですか?」
「何度も言いますが、もう兄ではありませんよ。それと、質問の答えはその通りです」
エリスの問いに肯定の意を表すと、ブラムが顔を顰めて言ってくる。
「なぜだ、どうして魔術師のお前が!」
「そう言えば、言ってませんでしたか……」
レイラが思い出したように言う。
「魔術師枠で三名、補佐会に魔術師が入るんですよ」
「魔術師枠!?」
そんなものは認めない、とでも言いたげな顔をするブラム。
「なぜそんなものを!生徒会は能力や実力が重視されるはず。実力において劣る魔術師がわざわざ枠を作ってまで生徒会に……」
「実力ですか。それでしたらブラム君は先日彼に負けたではないですか」
「――っ!あれは、油断してただけです」
「たとえ油断をしていたとしても、それで負けるのならもとから実力にそれほど差はないということですよ」
痛いところを突かれたのか、苛立たしげな表情をするブラム。
「……認めない、俺は認めないぞ!」
そう呟いてフェイに殴りかかろうとするブラム。
だがその手はブラムとフェイの間に割って入った一人の男によって止められる。
「きさま何をする、離せ!」
「そうはいかねえよ。大事な後輩が殴られるのをみすみす見逃しておけるほど俺は気が長くねえからな」
「後輩……きさまも魔術師か!」
「ご名答」
おどけた口調で言いながらブラムの右手をひねり、そのままドアのほうへ押し飛ばすグラエム。
「ありがとうございました」
「なーに、気にするな」
ブラムは体をドアに打ち付け、前かがみに倒れる。
そんな彼を見てエリスは「大丈夫ですか?」と言いながら、打ち付けた個所をさすろうとするが、その手はブラムにはらわれる。
痛そうにしながら起き上ったブラムにグラエムは言う。
「兄に向って殴りかかるのはどうかと思うぞ」
「うるさい、そいつはもうボネット家の人間ではない、赤の他人だ!」
「俺はお前みたいなやつが大嫌いなんだよ。フェイに手を出すなら俺が許さねえぞ!」
「これはボネット家の問題だ。部外者が口をはさむな!」
「さっきフェイはボネットと関係ないといったのはお前だろ」
「うるさい!」
なおも殴りかかろうとする。
だが、ブラムの頭上に水の玉が現れ、ブラムの全身を濡らす。
「それ以上の愚行は許しませんよ!」
レイラの厳かな声が室内に響く。
「――っ!す、すみません。取り乱しました」
会長にたしなめられ、謝罪するブラム。
だが、恨みがこもった目はフェイを向いていた。
「会長、確かこの学校には生徒同士の諍いを決闘といった形で治める風習があると聞きますが、それをこいつ……フェイとさせていただけませんか!」
「たしかに昔は盛んに行われていたと聞きますが……」
「でしたら!」
「……いかかですか、フェイ君?」
「え……」
突然振られ、困り果てるフェイ。
見ると、ブラムが「怖気付いたか」といった顔をしている。
その挑発に乗る気はないが、こうした場できちんと倒しておいた方が後々面倒なことにならないだろうと思い承諾する。
「では、後ほど実技室で」
レイラの一言で部屋を出ていくブラムとエリス。
普段とは違うブラムに戸惑いを見せるセシリア。
「会長、あれでも生徒会に入れるんですか?」
グラエムが会長に聞く。
「彼がああいう性格なのは以前から知っています」
「なら!」
「ですが、ほかの役員の人たちは彼の性格をほとんど知りません。ですから私は彼をここに入れたのです」
「どういう意味ですか?」
「彼のああいう一面を見せれば他の方々も彼を辞めさせるでしょう。だからこそ、彼を補佐会に入れるように言ってくる声に反対せず、彼を入れたのです。そして、彼一人が入ってもあまり意味がない……そう、フェイ君が入ることで彼はあの一面を出す」
まさか、といった表情を見せるグラエム。それはフェイたちも同じだ。
「だから僕を入れるのにあれだけ必死だったんですか?」
「ええ、君には悪いと思っています。ですが、これでボネット家の闇も少しずつ取り除かれていくと思ったので」
「そんな考えが……」
今まで面倒くさい人だと思っていた会長がこんなことまで考えていたことに驚きを覚えると同時に、申し訳なく思った。
……そういえば、
「会長、資料を僕の前に用意したりして僕をからかったりする必要ありましたか?」
「……さて、決闘についてですが」
……この人は信用しないようにしよう。
少し尊敬しようとしていた自分を殴りたい。……最近、こういうのばかりな気がしてきた。
……そういえば、メリアを待たせていたような……。




