二十話
昼休み、フェイは再び生徒会室に足を運んでいた。
会長には放課後に来るように言われていたが、その前に用事ができたのだ。
本来なら食事の時間なので、多分いないだろうな……と、思いながら生徒会室のドアをたたく。
「どうぞ、入ってください」
中からは、来るのが分かっていたといった声色の会長の声が聞こえた。
「失礼します」
「遅かったですね」
「来るのが分かってたんですか?」
「ええ、これを見たいのですよね?」
そう言いながら、レイラは机の上に置いてある分厚い紙の束をたたく。
「よく分かりましたね」
「それはもちろん、この学校の生徒会長ですから」
「言わなくてもわかると思いますが、それを見せていただけませんか?」
「んっー、どうしましょうか」
レイラがにやにやしながらこちらを見てくる。
「見せてもらえないと、ほかの役員を決められないのですが……」
フェイは、若干怒気を込めてそう言う。
それを涼しげな表情でかわすレイラ。
「クラスメイトから選べばいいのでは?」
「分かっていて言ってますよね?同じクラスメイトと言っても入学してからまだ数日しかたっておらず、だれがどれほどの力を持っているのかわからない、これは他学年の人たちも同じです。ですから、こうして生徒たちの情報を集めに来たんじゃないですか!」
フェイは苛立たしげにそう言う。
「分かっていますよ」
「でしたら……」
「ですが、これは生徒の個人情報ですからまだ役員にもなっていない人に安易に見せるわけにはいきませんので」
「……では、なぜ用意していたんですか?」
「ほしいものが目の前にあるのに手に入れることの出来ないのは、悔しくはありませんか?」
「……いい性格してますね」
「よく言われます」
以前にもしたやり取りを再び行う。
「では、どうすれば?」
「私が選んでおきましょう」
「会長が、ですか?」
「ええ、私は生徒会長ですから大体の生徒の情報は頭に入っています」
「すごいですね」
フェイはこの時、心からそう思った。
生徒会長としての仕事はきちんとしているらしい、性格は悪いけど。
「僕が補佐会に入る必要がない気がしてきたのですが」
「いえ、君が入らないと魔術師枠そのものが無くなりますよ」
しれっと、悪びれもなく脅迫じみたことを言ってくる。
「……わかりました、お願いします」
フェイは思った。いつか必ずこの人に痛い目に合わせてやる、と。
「では、放課後また来てください」
「えっ、そんなに早く役員を決められるんですか?」
「ええ、もう決めてありますから」
つまり、昨日の時点から僕がこうしてここに来ることを読んでいたのか……。
「もっとも、今日は補佐会役員の顔合わせだけで、生徒会役員との対面は明日です」
「なぜですか?」
「今日顔合わせをしたときに、この人とは合わなさそうだからやめたいという人が出るかもしれないので」
「会長、何だか急に僕が放課後に補佐会をやめたいと思うような予感が……」
「あなたはやめさせませんよ」
「……知ってました」
なぜ、ここまで僕を入れることに固執するのだろう……。
「では、失礼します」
「あ、お昼はもう済みましたか?」
「いえ、今から食べます」
「でしたら私と一緒にどうですか?私もまだなので」
「いえ、遠慮させていただきます。食事は美味しく取りたいので」
「そうですか、残念です」
「僕は安心しましたが……、では」
そう言い、生徒会室を出る。
「ふう」と息を吐き、アイリスたちが待っている食堂へ向かう。
「何だ、てめえ!」
「うるさい、フェイはどこだ!」
食堂の入り口に着くと、中からゲイソンとブラムが言い争っている声が聞こえてくる。
よく見るとエリスがブラムを止めているようだが、ブラムには聞こえていないようだ。
聞こえていてもやめないと思うが……。
「どうしたの?」
近くにいたアイリスに話しかける。
「あ、フェイ君。そこのブラムってやつがフェイ君を出せって叫んでくるのよ」
「そう……あ、僕は今日オムライスにしようかな」
「私もそうしようかしら」
「「おい!!」」
二人で昼食のメニューを決めていると、ゲイソンとブラムが声をかけてくる。
「フェイ、こいつをどうにかしてくれよ!」
「こいつとは何だ、俺は七公家の……」
「はいはい、聞き飽きたって!」
「何だと!」
「ここは学校なんだぜ。身分なんか関係ねえんだよ、お坊ちゃま!」
「貴様……!」
「ゲイソンは昼食何にするの?」
「……フェイ、よくこの流れでそんなこと聞けるな……かつ丼で」
「答えてるあんたも大概よ……」
あきれた声でアイリスが言う。
「では、買ってきますね!」
メリアがそういって席を立つ。
「頼んだよ、お金は後で返すから」
「あ、私も一緒に行く」
「俺も!」
「え、ちょっと……」
ゲイソンたち三人が席を立つ。
ということはつまり、一人だけになり、当然ブラムの目は僕に向かう。
「おい、フェイ!」
「……どうしたの?精霊ならもう顕現できるようになったでしょ?」
「当たり前だ!」
「じゃあ何の用?はっきり言って相手するのも面倒なんだけど」
「ふん、そういってられるのも今の内だ!俺は生徒会に入るからな」
「生徒会?」
「ああ、正確には補佐会だが、俺を手に入れるためにわざわざ作ったらしい」
「ああ、そう」
「余裕ぶりやがって、生徒会役員は校内で精霊の顕現を許可されている。つまり、お前にいつ何をしても問題にはならないんだよ!」
いや、問題になるでしょ。どれだけ短慮なんだよ……。
というか、この前普通に精霊を顕現してたような……。
それにしても、どうして生徒会はブラムを入れるんだろう。
「とりあえず、今日のところは何もしないでやるが、明日からは覚えとけよ」
「……魔力が回復してないだけじゃ」
そして、エリスと一緒に食堂を後にしていった。
微妙に体がふらふらしている。
それにしても、結局何をしに来たんだろう。
その頃、アルマンド王国の王城、王の間では。
「いくら七公家とはいえ、これを見逃すわけにはいきません!」
「だが、下手に重い罰を与えて反乱を起こされては……」
「いいや、軽くしすぎると王が七公家を恐れていると思わえる。そうすれば王の威光が損なわれる!」
そのやり取りを、彼らとは少し高いところに置いてある豪華な椅子に座りながら見下ろす一人の老人。
頭につけている王冠から、彼が王であることがわかる。
右手で顎に伸びている白髭を撫でながら、目をつむっていた。
国王らしい堂々とした風格や、家臣たちの国王を気遣うやり取りからも、彼が賢王であることがうかがえる。
そんな彼は目を開けると、鋭い眼光で彼らに言い放った。
「此度のボネット家に対する沙汰は―――――――――」