十九話
翌日の早朝、僕とメリアは実技室に向かっていた。
中に入るとすでにゲイソンとアイリスが練習をしていた。
「そのまま魔力を中心から広げるようにするのよ!」
「広げる……出来ねえ!!」
「何でできないのよ!」
「教え方がへたくそなんだよ!」
「何ですって!」
「何だよ!」
……いつも通りの二人だ。
「おはよう、ゲイソン、アイリス」
「あ、フェイ君おはよー」
「よう!」
「早速【エンチャントボディ】の練習をしてるんだ」
「おう、時間がないからな」
「じゃあメリアもしようか」
「はい!」
そう言って僕はメリアの両手を取る。
「フェ、フェイ君何してるの?」
「朝から見せつけるな!」
何やら二人とも誤解をしているようだ。
「僕の魔力を流すんだよ」
「魔力を?」
「うん」
そう言いながら僕は魔力を両手に集める。
フェイの両手から混じりけのない、他者を圧倒する純粋な白い魔力が出始める。
「すげえな……」
「私、こんなにきれいな魔力初めて見た」
フェイはそのままメリアの魔力の流れを感じ、そこに自分の魔力を流す。
「んっ……」
メリアは頬を紅潮させながら声を出す。
「……何か、エロイな」
「この変態!」
「うるせえ!」
徐々にフェイの両手から出ていた魔力が消え始める。
「ふう、こんなものかな?メリア、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
そういうメリアの両手からは、まだ少しフェイの魔力がにじみ出ている。
その魔力の道筋をたどるようにメリアは目をつむり、自身の魔力を集め始める。
数分が経ち、フェイの魔力とは違う、白に近い灰色の魔力がメリアの右手全体にともる。
「やった、できましたフェイ様!」
「うん、昔よりも魔力の道筋をたどるのがうまくなったね」
「ありがとうございます!」
口調は丁寧だが、子供のようにはしゃぐメリアを懐かしみながらフェイは見つめていた。
練習が終わり汗をぬぐっていると、アイリスがゲイソンに聞いていた。
「それにしても、あんた私より来るの早かったけど眠たくないの?」
「眠たいに決まってるだろ。だが、俺にはきちんとした対策がある」
「どんな?」
「授業中に寝る!……これに限るぜ」
「あんた、いつも寝てるじゃない」
「あれは仮眠だ。だが今日は真剣に寝る」
そんな堂々と言われても……。
て言うか、仮眠中にチョークをぶつけられて起きないのなら、真剣に寝てたらどこまで深く眠れるのだろう。
「どうせ、アーロン先生の授業なんか寝てても分かるからな」
「そうか、ならお前は今度の小テスト、満点なんだろうな」
実技室の入口から強大な殺気が迸る。
その殺気の主に気付いたゲイソンが、顔を引き攣らせながら言う。
「アーロン先生、どうしてここに?」
「何、朝練をしている生徒がいるかもしれないからな、呼びに来たんだ」
「そうですか、お疲れ様です!」
「ああ、本当に疲れるよ。特に、お前のような生徒を持つとな!」
「はは……」
乾いた声を出すゲイソン。
アーロン先生はそんな彼を鋭い眼光で睨みつける。
「そんじゃ、俺はそろそろ教室に戻ります」
それに居心地の悪さを感じたのか、ここから足早に立ち去ろうとする。
だが、それを許すほど先生は甘くなかった。
「ゲイソン」
「……何ですか?」
「次の小テストで満点を取らなかった場合、放課後特別に俺の補習を受けさせてやろう」
「こ、光栄であります」
涙顔でそう言ったゲイソンに心の中で、「ご愁傷様です」と、ここにいた誰もが手を合わせた。
――時は少し遡り、前日の夜。
ボネット家の一室に、ブラムとエリス、セシリアの三人がいた。
「それで何の用ですか、セシリア姉さん」
エリスのそばには、バスローブのようなものに身を包んでいるブラムがソファに座っていた。
この間の一件以来エリスがブラムを遠ざけていると言う事にも気づかず。
そんなブラムがセシリアに聞く。
「ブラムとエリスに、生徒会補佐会に入ってもらいたいの」
「生徒会補佐会?」
聞いたことがない言葉に困惑の表情を見せるエリス、それはブラムも同じだった。
「要するに、生徒会の見習いよ。一年間所属した生徒は次年度から正式に生徒会役員になれると言う事よ」
「なるほど、つまり俺のような優秀な存在が一刻も早く生徒会に欲しいが、さすがに一年生や二年生が役員になるのには問題がある。だが、一刻も早く俺が欲しい生徒会は、一年後には役員になれるように新しく作ったのか!」
得心がいったのか、満足げな表情を浮かべるブラム。
その弟の様子にセシリアはため息をつく。
「とにかく、詳しいことは明日言うから明日の放課後に生徒会室に来て、いい?」
「ああ!」
「あの、私が行ってもいいんですか?」
エリスが遠慮がちに聞いてくる。
「エリス、自信を持ちなさい。あなたは一年生の中でもトップクラスの精霊術師よ!」
「……はい」
「では、セシリア姉さん、エリス、おやすみ!」
意気揚々と部屋を出ていくブラム。
そんな彼を見ながらセシリアは再びため息をついた。