十八話
魔力は赤血球と同じく血液中を循環しており、酸素を運んだりもする。
そのため、魔力を使いすぎると魔力切れを起こし、貧血や酸欠を起こしたりする。
魔力量が多い術師はその分赤血球の数が少ないため、魔力切れを起こすと魔力量の少ない術師より症状が重くなる。
僕の前ではゲイソンが右手首に左手を添え、「魔力よ、我が右腕に集え!」とか言いながら、魔力操作を行っている。
アイリスは右手だけでなく左手にも魔力を出している。
「あの、フェイ様」
「あ、ごめんごめん。それで、今はどこまで出来るの?」
「その……」
そう呟き、メリアは右手に魔力を集め始める。
しばらくして白に近い灰色をした靄のようなものが、メリアの右手の親指と人差し指、中指に集まり始める。
魔力は純度が高いほど白に近く、逆に低いほど黒に近くなる。
「三本まで出せるようになったんだね!」
「はい!」
五年前まではメリアは親指でしか魔力を出すことが出来なかった。
アイリスはメリアより少し純度は低いが、両手に出せるほど魔力操作がうまい。
ゲイソンは……何、あのどす黒い魔力……。
「ふう、やっと出来たぜ!」
「あんたの魔力純度、低すぎない?」
近くにいたアイリスがゲイソンにそう言う。
「そうなんだよなー、純度が低いせいで精霊と契約できねえんだよ」
「ふーん」
「ま、俺はこの魔力結構好きだぜ!」
「どうしてよ?」
「黒色って、何か男心をくすぐるだろ?」
「……私は女だからわからないわね」
二人の話を聞きながらメリアに言う。
「メリアの魔力純度は高いね」
「放出できる量が少ないんですけど……」
「うーん、昔みたいに僕の魔力を流して少しずつ魔力の流れをつかんでみる?」
「え、ここでするんですか?」
「何か問題でもあるの?」
「いえ、その……」
顔を赤くして俯くメリア。
「まあいいや。それならまた今度にしよう」
「すみません……」
「あー、よく聞けお前ら!」
全員、先生のほうを見る。
それを確認して、先生が続ける。
「一週間後にテストを行う」
生徒たちがざわつく。
「テスト内容はいたって簡単だ。【系統外魔法 エンチャントボディ】を使うことだ」
【系統外魔法 エンチャントボディ】
身体中に魔力を流し、細胞を活性化させ通常なら不可能な身体能力を身に着ける魔法。
これは、身体中にまんべんなく魔力を流す必要があるため、高度な魔力操作技術が必要となる。
「不合格のものは、放課後出来るようになるまで俺と一緒に補習だ。安心しろ、回復魔法なら使える」
それを聞き、冷や汗をかく生徒達。
「よし、今日はここまでだ!各自練習をして合格するように頑張れよ!」
そう言って【エンチャントボディ】を使って実技室を出ていくアーロン先生。
僕は視線をゲイソンたちに戻す。
「フェ…………フェイ、俺はどうすれば……」
「フェイ様、私まだ三本の指にしか……」
二名ほど焦りを顔に募らせていた。
「アイリスは使えるの?」
「使えるわよ」
平然と言いきるアイリス。
「くっ、お前にできて俺にできないわけが!」
そう言って、ゲイソンは両足を肩幅に開き、「黒き魔力よ、我が身に宿りたまえ!!」と言っていた。
しかし、魔力は右手にしか宿らない。
「……あんた、恥ずかしくないの?」
「言うな、それ以上は言ってくれるな……」
ゲイソンの声が、空しくあたりに響いた。
学校を出たフェイたちは、喫茶店に入った。
と言うのも、アイリスが「テストに向けて作戦会議しようよ!」と言い出したからである。
アイリス達はすでに頼むものを決めている中、フェイだけはメニューを凝視していた。
「イチゴのチョコレートケーキ、ベリーケーキ、ミモザケーキ、アップルクランブルケーキ……あ、フィナンシェもいいな……」
「ふふ、フェイ様は相変わらず甘いものお好きですね」
「あ、待たせてごめんね」
「大丈夫です」
「それにしてもフェイ君がこんなに甘いものが好きだとはね」
「ああ、俺も意外だ」
フェイは結局抹茶フィナンシェを頼んだ。
最近はほのかに甘いものが好きなのだ。
ケーキが来るまで、テストについて話し合う。
結果、毎日朝練をすることになった。
フェイのもとに抹茶フィナンシェが届いた。
抹茶のいい香りがする、フェイはそれを一口。
口の中で抹茶の濃厚な味とバターの風味が漂い、それでいてしつこくない甘さがあり、程よくふんわり、しっとりとしていた。
フェイは無言で咀嚼する。
食べ終えて一息つくと、アイリスたちが僕を見ていた。
「どうしたの?」
「いやー、うまそうに食うなって思ってさ」
「だって、おいしいし……」
「そりゃ、そうだけどよ」
フェイは一週間に一度この店に通う、そう心に決めた。