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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
五章 戦慄の魔術師と五帝獣
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百九十一話

「夜会の大まかな流れはフェイも覚えてるわよね?」


「大雑把なものでしたら」


 レティスの問いにフェイが頷き返すと、それでも彼女は認識に齟齬がないことを確認するように説明を始めた。


「招待客は招待状に書かれている時間よりも早めに会場に到着して、主催者が現れるまで歓談をするの。その後、主催者の言葉を聞いてから序列順に主催者へ挨拶をしに向かう」


「殿下、詳しいですね」


 序列順とは貴族の爵位のことで、公爵から順に挨拶をするのが一般的な慣例となっている。

 もちろん同じ爵位の間でも領地の経営状況などから挨拶をする順が前後する。


 とはいえ、これは貴族間の慣例で、王族の作法はまた違っている。

 そもそも王族が貴族の夜会に出席すること自体は稀であり、もし出席しても貴族の立場では「出席していただいた」という形になる。

 ゆえに、挨拶をするべきなのは貴族の方であり、王族は相手が来るのを待つ立場にあるのだ。


 それは今回のレティスにも言えることで、にもかかわらず貴族間の慣例を勝手知ったるように説明して見せたのが意外だった。


 フェイが指摘すると、レティスは得意げに胸を張る。


「今日のために調べておいたのよ。って、話は真面目に訊く!」


「す、すみません」


 今日のレティスは教師モードのようだ。

 フェイもまた居住まいを正す。


「挨拶が終わればいよいよ夜会の始まりよ。音楽に合わせて踊ったり、時間が経てば別の部屋で歓談をしたり」


「歓談、ですか」


 うへぇと、フェイは露骨に渋面を浮かべる。

 挨拶における所作やダンスなど、夜会において懸念していることは色々とあるが、中でも歓談は一番の障害かもしれない。

 何せ、フェイは殆どの貴族と面識がない。

 というよりも、覚えていないというのが正しいが。

 そんな相手と上手く話ができるのか不安だ。


 フェイの呟きに、レティスがくすりと笑う。


「そんなに心配する必要はないと思うわよ? 向こうから話題を提供してくれるわ」


「そうでしょうか」


 貴族たちにとって、フェイは一度死んだ人間だ。

 そんな人間が再び現れて、距離を取られそうなものだけど。


 フェイが眉根を寄せると、レティスはピンと人差し指を向けてきた。


「その認識は改めた方がいいわ。フェイは今、誰よりも注目されているんだから」


 いつになく強い語気で言われ、フェイは思わず押し黙った。

 注目されているからこそ下手なことはできないというのがフェイの正直な感想なのだが、そこは口にしないでおいた。


「当日は私が一緒にいるんだから、フォローしてあげるわよ」


「それはとても心強いです」


「ふふん、任せなさい。……っと、話はここまでにしてそろそろ始めないと。折角これだけ広い場所があるんだし、ダンスの練習からしましょうか」


「お願いします、先生!」


 フェイの物言いにレティスは更に気を良くしながらしなやかに手を伸ばしてきた。

 それは、夜会――ひいては社交の場で女性の方からダンスに誘う時の所作だ。


 フェイは僅かな緊張を覚えながら、その細い手をとった。



     ◆ ◆



 ――意外なことに、踊りの大まかな流れは覚えていた。

 もう何年も踊っていなかったのに、レティスの動きに若干まごつきながらもついていけている。

 ……時折つまずきそうになるが、そういう時はレティスが手を引いてフォローしてくれる。

 王族として教育を受けている彼女は、普段はそうと感じないがこの辺りの技術は流石というほかない。


 踊っているうちになんだか気持ちよくなってきて、フェイは目の前で同じように踊りを披露するレティスに笑いかける。


「楽しいです、殿下」


「私も楽しいわ、フェイ」


 音楽が流れておらず、少し物寂しいダンス会場ではあるが、フェイとレティスはそんなことも気にならなくなっていた。

 そんな二人を傍目から眺めていたアイリスがポツリと零す。


「はえー、絵になるわねー。王族とか貴族ってどうしてあんなにオーラがあるのかしら」


「お前にはないもんだな」


「うっさいわね! ていうか、あんたにもないでしょうが」


 ゲイソンも茶々を入れながらも二人のダンスに視線が釘付けになる。

 慣れ親しんだ実技施設のはずなのに、二人のいる場所だけ別世界のように映る。


 こういうところを見ると、自分と友人との間にある壁のようなものを感じてしまう。

 ゲイソンは頭を振りながら、自分を誤魔化すようにおどけた態度で言う。


「でもよ、ダンスって何が楽しいんだろうな。くるくる回ってるだけじゃねえか」


「はー、これだから脳筋は」


 再び言い合いが勃発する。

 丁度フェイたちの踊りがひと段落を迎えた頃、アイリスが思い出したように言った。


「っと、見てばかりいないで私たちも始めましょうよ」


「おう、そうだな!」


 あくまでもアイリスたちの目的は魔法の鍛錬で、そこを疎かにするつもりはない。

 各々がフェイたちから視線を切って鍛錬の準備を始める中、メリアはいまだにフェイたちの方を見つめていた。


「メリア……? どうかした?」


「っ、な、なんでもないです!」


 アイリスに声をかけられて、メリアは弾かれたように動き出す。

 ゲイソンたちの輪の中に入りながら、メリアは最後にもう一度フェイたちへ視線を流した。

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