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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
五章 戦慄の魔術師と五帝獣
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百八十六話

「それで、一体どのようなお話でしょう?」


 生徒会室内に据え置かれている応接用のソファに腰を下ろしたフェイは、対面のレイラに問いかける。

 隣に座っているレティスの気配が少し気になるが、意識しないよう努める。


 フェイが問うと、レイラもまたレティスのことを一瞬チラッとだけ見てから口を開いた。


「実は、近々私の家で夜会を開こうという話がありまして。フェイ君もよろしければ、と」

「夜会、ですか」


 貴族が他貴族との親交を深めるために、あるいは勢力図を確たるものとするために夜会を開くのはよくあることだ。

 特に、レイラの家、マレット家はアルマンド王国において最も力を有する七公家の一角。

 しかも最近になって公爵家になったばかりとあっては、夜会を開き、他貴族を味方にするのも重要なことだろう。


 だが、と。フェイは閉口する。


 公爵家の開く夜会ともなれば相当数の貴族が来るだろう。

 フェイが近く公爵家に陞爵するという話は公に喧伝されているというわけではないにしろ、すでに貴族諸侯の間ではもっぱらの噂になっている。


 突然フェイが公爵位につくと混乱が生まれるということから、王家が意図的に噂を流しているかもしれないと、以前トレントが口にしていた。

 あるいはこれが、アルマンドが言っていた準備なのかもしれない。


 真偽はどうあれ、夜会に出ると少なくない貴族がフェイの元に群がるだろう。


 相手は成人前の子どもだ。上手く操れると考えているのかもしれない。

 現に、フェイの元には数え切れないほどの貴族からパーティーへの招待状が届いている。


 本来、他貴族をパーティーに招待する場合、対等の相手か格下の相手にしか送ってはいけない。

 目上の相手に送るのは失礼に値するのだ。

 とはいえ、フェイは現在は五等爵の一番下である男爵だ。


 将来的に公爵に就くとはいっても、現状はどのような地位の者であっても気軽に誘うことができる。

 フェイはこれを、『自分が公爵位になった際、盛大にパーティーを開く予定ですのでそれまでお待ち下さい』と断ってきた。

 そんな自分が他貴族の夜会に出席しては、外聞もよくないだろう。


 フェイが考えこんでいると、レイラがくすりと笑んだ。


「フェイ君が他貴族からのパーティーへの誘いを全て断られていることは聞き及んでいますよ。そのことを憂慮されてるのであれば、杞憂です。我がマレット家は公爵家。言わば貴族のヒエラルキーの頂点です。その誘いを受けたところで、何も問題はありません。むしろ、断る方が外聞がよくないというものです」


 にこやかに微笑みながら、レイラはそう言ってきた。


(……つまり、断るな、ということか。相変わらずこの人はこういうところが抜け目ない)


 フェイの憂いを排除する優しい言葉に見せかけて、その実退路を塞いでいるのである。

 あるいは、こういうことができなければ公爵家なり得ないのかもしれない。


 はぁと嘆息すると、フェイはソファの背に体を委ねる。


 フェイの懸念が貴族間のいざこざだけであったのなら、レイラの言葉に負けて頷き返していただろう。

 しかし、フェイにはまた別の懸念があった。


(レイラさんとの婚約の話、あれからずっと後回しにしてるからなぁ)


 以前マレット家へ招待された折り、レイラの父であるセロルマに自分の娘の婚約者になってくれないかと言われたのだ。

 公爵家の申し出を安易に断るわけにはいかないとその場はお茶を濁し、今に至る。


 時折セロルマから返事を催促するような書状も届いている。


 今回、マレット家の夜会に行けばそのことを問われるのは必定だろう。

 そして今度こそ答えを濁すわけにもいかない。


(そのことを、レイラさんは知ってるのかな)


 貴族の中では、親が勝手に結婚相手を決めるということはよくある話だ。

 そういう意味では、レイラに話がいっていなくても不思議ではない。


「レイラさんは、セロルマさんから何か聞いていますか?」


 一応訊いておこうと、フェイは切り出す。

 すると、レイラは訝しむように眉根を寄せた。


「父からですか? どういった内容の話でしょう」

「ええと、……いえ、特に思い至らないのであれば大丈夫です」

「はぁ……」


 フェイの曖昧な物言いに、しかしレイラはそれ以上は追求しない。

 相手が口を濁らせたことを無闇に聞き出そうとしないのも、貴族社会における処世術の一つだ。


 隣から視線を感じてそちらを見ると、なぜかレティスがむっと頬を膨らませて不満げにこちらを睨んでいる。


 話に混ぜてもらえないことを拗ねているのだろうか。

 いやしかし、この場に強引に割って入ったのはレティスなのだから自分に非はないはずだ。


「それでいかがでしょう。我が家の夜会に来て下さいますか?」

「……わかりました。是非に」


 レイラの再度の問いに、フェイは今度こそ頷き返した。

 その返事にレイラはほっとしたように微笑むと、「父に伝えておきます。詳細は後日、書状にて」と告げる。


 話はこれで終わりかと視線を交わし、ギリアンたちが待つ実技施設に向かおうと立ち上がろうとしたフェイを、これまで黙って話を聞いていたレティスの声が引き留めた。


「――マレット家の夜会、私も出席するわ」

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