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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
五章 戦慄の魔術師と五帝獣
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百七十三話

 アルマンド王国王都が夜闇に包まれる時分。

 王城の至る所から光が漏れだしていた。


 民が眠りについても、王城が眠りにつくことはない。

 衛兵たちは交代で周囲を巡回し、侍女たちは一日の最後の仕事に従事する。


 そんな中、王城の一室には有史以来一度も揃うことのなかった面子が揃っていた。


「それでは、今回のことについて説明いたします」


 部屋に備え付けられたソファに全員が腰掛けたのを確認して、フェイは口を開いた。


 ソファには、アルマンド王国国王であるアルフレドと、レティス、そして彼女の兄であるギリアンが。加えて大臣の一人と、ルクスが座っている。

 壁の隅にはレティスの専属侍女を勤めているセリーナが控え、部屋の中央で佇むフェイの周囲にはフリールたちの姿がある。


 凡そこの国を担う重鎮と、何より六体の帝級精霊が一斉に会していた。

 フェイを除けば、帝級精霊が自然に漏れ出す威圧にどこか硬くなっている。


 全員が自分の声に意識を向けているのを見て、フェイは続ける。


「まず、結論から申し上げますと……光の帝級精霊は現在、レティス殿下と僕、二人の契約者を持つ状況になっています」

「ふむ?」


 フェイの言葉に、アルフレドが眉を寄せる。彼が抱いた疑問はこの部屋にいる誰もにとって共通だったようで、フェイは説明を続ける。


「殿下の精神世界の中で、僕は、えーっと……」

「ルクスでかまわぬ」

「わかりました、ではルクスさんと。僕はルクスさんに【エレメンタルコントロール】という魔法をかけました。これは契約者と契約精霊の間の繋がりを阻害するような魔法なのですが、本来であればその効果は短い間しか持続しません」


 フェイが生み出し、そしてフェイにしか扱えない魔法――【系統外魔法 エレメンタルコントロール】。

 通常、圧縮した魔力を精霊に放つことで契約者との魔力のつながりを一時的に断ち、精霊を行動不能に追い込む魔法だ。

 だが、今回この魔法が起こした効果はもう一つある。


「術師として魔法を学び始めてからまだ間もないレティス殿下は、その素質こそルクスさんと契約することが可能なほどでしたが、それを扱いきれるだけの経験を積まれていません。ですから、お二人の契約はひどく不安定で、契約者である殿下は眠りにつくことになりました」


 帝級精霊を従えるにあたうほどの魔力を内包しながら、しかしレティスにはそれを扱い切れるほどの実力が未だ備わっていなかった。

 故に、精霊の一方的な契約に耐えきることが出来なかったのだ。


「ですが今回、その不安定な繋がりに僕の魔力が介入したことで、ルクスさんと僕の間にも繋がりができてしまったんです」

「つまり、不安定な繋がりを安定させるためにフェイ男爵の魔力を用いているということか?」

「その通りです」


 言わば今のフェイは補佐。レティスとルクスの契約を完全なものとするための補助でしかない。

 故に――


「ですから、レティス殿下の技量が上がれば、自然に僕がルクスさんと繋がる理由もなくなり、恐らくはある段階に達したところで僕との契約は破棄されるはずです」


 そこまで言い終えて、フェイは口を閉じた。

 自然と部屋にも静寂が訪れる。


 ただでさえ光の帝級精霊の存在だけでも相当な出来事であるにも関わらず、王族の姫がその契約者に選ばれ、更に五体の帝級精霊を牛耳るフェイが仮とは言え二人目の契約者に選ばれた。


 アルフレドの頭には、新たな力が生まれたことへの喜びと、それに勝る不安があった。


 フェイという存在を諸外国にどう伝えればいいのか悩んでいたというのに、レティスまでもが帝級精霊の契約者となる。

 これにはさすがに他国も黙ってはおけないだろう。何らかの保障を求めて来るに違いない。


 色々なことを考え、アルフレドはひとまず考えるのをやめた。

 外交的な方策は少なくとも今この場で決めることではない。後に大臣たちと話し合えばいいだろう。

 それよりもこれからのことを話し合うべきだ。


「して、どうすればよいのだ?」

「そうですね。やはり一精霊に二人も契約者がいるという現状は問題ですので、ひとまず僕はこれからも殿下に魔法をお教えし、殿下が一人でもルクスさんときちんとした契約が結べるようにサポートします。陛下たちは何か異変が起きれば僕をお呼び下さい。――尤も、殿下がルクスさんと契約を交わししたくないということであれば、僕も何かしらの手は打ちますが……」

「いえ、問題ないわ。むしろフェイが持っている力と同等のものを手に入れることができるのなら、望むところよ」

「そ、そうですか」


 フェイの言葉に、それまで考え込むように黙っていたレティスが声をあげる。

 彼女の動機がいまいち理解できないフェイは困惑気味に頷き、そしてルクスに視線を向けた。


「殿下が成長されるまでの間、できればあまり力を使わないでください。二人の契約者の魔力によって精霊魔法を発動することでよくないことが起きるやもしれませんので」

「わかっておる。妾はこの者が真の契約者となるまでは大人しくしておこう。暴れでもしたら、今度こそそなたに消されかねん」


 ルクスの物言いに、フェイは肩を竦めながらほっと胸を撫で下ろした。

 精神世界ではこちらに敵意を剥き出しにしていたルクスだが、今はむしろ友好的な接し方をしている。

 長きに渡り契約者を求め、ようやく巡り合えたレティスの中に入ったところをフェイが介入してきたことで色々と焦りがあったのだろう。

 事情をきちんと話したことで、理解してくれたのだろう。


 僅かに笑みを浮かべながら、フェイはもう一つ、レティスとルクスの二人に告げた。


「それから、この後お二人でゆっくり話をしてください。精霊と契約者は何も利害だけの関係ではありません。お互いに親睦を深め、信頼を築き合うことも必要なことです」

「私とあんたみたいに?」


 フェイの言葉に、横にいたフリールがおどけた調子で囁く。


「……まぁ、否定はしないよ」

「! な、何をバカなこと言ってるのよ!」

「えぇ!? フリールが言ってきたんじゃないか!」


 フリールが叫びながらそっぽを向き、その理不尽な対応にフェイは困惑する。

 二人のそのやり取りを見ながら、ルクスとレティスは笑う。


「承知した。では妾たちは後ほど語らうとしよう」

「そうね」


 レティスたちは互いに顔を見合わせて頷く。

 昏睡の元凶となったルクスに対して恐怖心のようなものを抱いているのではないかと不安だったが、大丈夫なようだ。

 レティスの朗らかな笑顔を見てフェイは密かに安堵する。


「……できることなら、殿下たちと一緒に居られた方がいいんだけどね」


 安心しながらも、やはり不安は残る。

 フェイが領地にある屋敷に帰っている間に予想外のことが起きないとも限らない。

 だが、レティスは王城、フェイは屋敷に暮らしているのだから、やむを得ないだろう。


 できれば何事起こらないことを願うしかない。


 フェイが憂いを帯びた表情で小さく呟いたその言葉は、アルフレドの耳に届いていた。

 そして、考え込むように顎に手を添えた。

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