閑話 純粋なガラス玉 中編
会長の気遣いに感謝しながら、幼き頃のフェイが映っている写真を見る。
写真の中央にはフェイ、両脇にはセシリアとエリスが映っていた。
フェイが両手で包み込むように持っている綺麗な透明のガラス球を見て、あの頃のことを思い出していた。
――六年前。
セシリアは、エリスとフェイの三人でボネット家領内のとあるガラス細工屋に来ていた。
三人と言っても、店の外には数名の護衛と思しき兵士と馬車が止まっていた。
「フェイ、これなんかどう?」
青色をしている、ガラスで作られた小鳥を手に取りフェイに見せる。
今日はフェイの誕生日で、エリスと一緒にフェイのプレゼントを買いに来ているのだ。
「うわー、きれい……」
この店はボネット領内でも五本の指に入るガラス細工の店で、細かな造形がとてもきれいなので、この店で買うことにした。
「お兄様……これは、どうですか?」
そう言ってエリスがフェイに見せているのは同じく青だが、形はイルカで小鳥よりは単純なつくりだが、背のなめらかな曲線がとても美しく見える。
「かわいいな、うーん、迷うよ」
口では困った風なことを言いながらも、笑っていて楽しそうに見える。
「フェイ様、いかかですか?」
この店の店主がフェイに話しかけている。
茶色の髪はぼさぼさだが、それでも彼女がとてもきれいに見えるのは、整った顔立ちに引き締まった体からだろう。
「どれもきれいで、なかなか決めれないよ。ごめんね」
「いえいえ、じっくりとお選びください」
そう言ってフェイから目をそらした店主が、「かわいい……」とつぶやいていたのをセシリアは聞き取っていた。
確かに、姉である私でもフェイに上目づかいで「ごめんね」と言われたら、そう思ってしまう。
もしかしたら鼻血が出るかもしれない……。
フェイは店内を見回し、奥に置いてある透明なガラスの玉に目を止めた。
「あれ、何?」
フェイがそれを指しながら店主に聞く。
「あれは加工前のガラスです。ああして球体にしたガラスをとかして形を作ったり、色を付けるんですよ」
「透明で、きれいだね」
「きれい……ですか?」
「うん、透明で何にも染まっていない、純粋な感じがして……」
純粋……。
「フェイは、純粋ってどういうことだと思うの?」
ふと気になったので、聞いてみる。
「きれいなことだと思う」
「きれい?」
「だって、純粋って濁りがなくて澄んでることでしょ?」
「澄んでる……」
「うん。純粋は、つまりは澄んだ心の事だと思う。澄んだ心ってきれいで素敵だと思うでしょ?」
「……そうね」
その後も透明なガラス球を見ているフェイ。
私はエリスに聞いてみる。
「エリス、フェイのプレゼントあれでいい?」
「え、はい!お兄様もあれが気に入っているみたいですし……」
「じゃあ、決まりね」
私はガラスの玉を手に取り店主に聞く。
「すいません、店主さん。これ、いくらですか?」
「えっ、それはまだ加工されていませんが……」
「これがいいんです!」
「……加工していませんし、600エールでいいですよ」
それを聞き、私とエリスは財布から金貨を三枚ずつ出して店長に渡す。
その後数分談笑した後、店から出て馬車に乗る。
帰り道、フェイに先ほど買ったガラス玉を渡す。
「はい、私たちからのプレゼント」
「ありがとう、セシリア姉さま、エリス」
満面の笑みを浮かべ、目を輝かせながらいろいろな角度からガラス球を見るフェイ。
その後、誕生日には必ず取る写真の時も、フェイはそのガラス玉を離さなかった。
私は、このガラス玉に願いを込めてフェイに贈った。
――このまま、フェイが純粋に育ってほしいと……。