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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
五章 戦慄の魔術師と五帝獣
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百六十六話

「失礼します」


 フェイたちを乗せた馬車が王城についたのは翌日の明け方だった。

 道中気力を養うために出来得る限り眠っていたが、何分馬車の中なのとレティスの容体の心配でとても十分には眠れなかった。


 襲い掛かる眠気を、しかし振り切りながら、フェイはレティスの部屋のドアをノックしてからそう声をかけた。


 王城について早々、まずはレティスの部屋に行くように言われたのだ。


 返事はなく、ドアを開けようとして中から開かれた。


「セリーナさん」


 ドアを開けたのは、レティスの専属侍女を勤めているセリーナ=ミドウェルだった。

 青い目には疲労が色濃く表れ、肩ほどまでのオレンジ色の髪も乱れている。

 レティスの従者として、彼女の心労はきっと計り知れないものだろう。


「フェイ男爵。レティス様を……」

「ええ、わかっています。少し様子を見させていただいても?」


 フェイの問いに、セリーナは「もちろんです」と頷き、奥のベッドまで連れて行く。

 そこにはレティスが静かに眠っていた。


「……なるほど、確かに魔力を感じない」


 フェイの屋敷に跳び込んできた宮廷術師が言った通り、確かにレティスの体から魔力を一切感じない。

 フェイは自分の魔力感知能力が人並みにはあると自負しているし、事実彼の魔力感知はそれこそ宮廷術師を凌駕する。


 そんな彼ですら、レティスの体から魔力を感じないのだ。

 ただ静かに、本当に今にも目覚めるのではないかと思われるほどに静かに眠っている。


 スー、スー、と規則正しい寝息と共に上下する胸が唯一の救いか。


「【サーチサークル】」


 念のため、魔力を放出して確認を取る。

 が、やはりレティスが放つであろう魔力になんの反応も示さない。


「まさか……」

「ん? フリール、何かわかったの?」


 眉間に皺を寄せてレティスを見つめていると、フェイの後ろでその様子を見ていたフリールがポツリと声を漏らした。

 そしてそんな彼女に同調するようにシルフィアたちは顔を見合わせている。


 どんな些細な手がかりでも欲しいフェイは、振り返ってフリールに問いを投げた。


 フェイの問いに、フリールたちは困ったように目を伏せる。それから小さく首を振った。


「なんでもないわ。たぶん、私たちの気のせいよ。今になってそんな、あり得ないから」

「……? そう。何かわかったら教えてよ。陛下が僕を呼んだ理由の中に、君たちが含まれているはずだから」

「わかったわ」


 フリールたちが頷き返したのを見て、フェイは再び視線をレティスへと移す。

 見たところ、今すぐにどうこうという話ではないかもしれないが、このままの状態でいいというわけでもない。

 一刻も早く打開策を見つけなければいけないが、一介の精霊術師に過ぎないフェイに彼女の病がわかるわけがない。


 一体どうすれば。


 湧き出た疑問と苛立ちを抑え込みながら、フェイはレティスの手にそっと自分の手を重ねた。

 直後――


「ッ!? ぐぅ……!」


 突然、脳裏に何かが流れ込んでくる。

 それは記憶の断片のようなものでもあり、あるいは拒絶でもあった。

 激しい何かが流れ込んできて、そのあまりの情報量にフェイは頭を押さえる。


「フェイ!」


 それを見たフリールが咄嗟にレティから引き離した。


「っ、……ありがとう、フリール」

「それはいいわ。何があったの」

「言葉にはしにくいんだけど、何かが流れ込んできたような……」


 よろめきながら戸惑いの声を漏らすフェイ。

 そうしていると、ドアの方から突然厳かな声が響いてきた。


「――待たせたな、フェイ男爵」


 ドアから姿を覗かせたのは、アルマンド王国国王、アルフレド=アルマンドだった。


 ◆ ◆


「突然の呼び出しに応えてくれたこと、感謝する」

「いえ、殿下のことはとても他人事ではないので」


 近くの応接室のようなところに場所を変え、互いにソファに腰掛けたところでアルフレドがフェイにそう頭を下げてきた。

 やはり、彼も以前顔を見た時とは比べ、幾分かやつれている。


「それで陛下、何故僕を呼んだのでしょうか。病に関することであれば僕よりも知識を持った者がいるはずでは?」

「ただの病であれば、そうであろうな。だが今回は違う」

「違う、と申しますと?」


 アルフレドの意味あり気な言葉にフェイは問う。

 その問いを受けて、アルフレドはフェイの後ろに立つフリールたちに視線を移した。


「わしの娘、レティスを目覚めさせるには、帝級精霊の力添えが必要だということだ」

「やはり、そういうことですか……」


 帝級精霊との契約者である自分を呼び出した以上、彼女たちがきっと事態を解決に導く鍵になるのではとフェイは睨んでいた。

 その予想は正しかったらしい。


「……では、やはり陛下は殿下が昏睡状態に陥ったその原因をお知りになられているのですね?」

「その通りだ。そして今回フェイ男爵を呼んだのも、事態の解決に貴公の力が必要であると思ったからだ」

「では、その解決方法を教えていただければ、すぐに僕が彼女たちと共に――」

「――解決方法はわからぬ。わからぬが、その糸口になるのではと思っている伝承が一つある」

「伝承……?」


 フェイの戸惑いを含んだ反芻に、アルフレドは頷く。

 と同時に口をゆっくりと開いた。


「――アルマンド王国の王族。我らの先祖が交わした契約の伝承だ」

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